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不登校をセパタクローが救う

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この夏、ちょっと不思議な設定の小説「セパ!」がポプラ社から刊行されました。昨年の同社「ズッコケ文学新人賞」の大賞受賞作です。主人公は、劣等感のカタマリ、自信なし、コミュ力なしの男子中学生です。学校に行けなくなっていたある日、東南アジアの伝統スポーツ「セパタクロー」に出会い、前に進み出します。作者はしんどくて仕事を休んでいた時期をきっかけに、この物語を書き上げました。「逃げるのもアリと思ってもらいたい」と言います。

  

学校に行けなくなった主人公、自分重ね

 主人公の翔(かける)は、なんでも万能な兄と、学校でも家庭でも比べられ、「劣等感」を抱えていました。兄がいるサッカー部を避けてバレーボール部に入ったものの、ここでも先輩にいじめられる日々。あることがきっかけで、学校に行けなくなり、自分の部屋に長期間、引きこもります。

つらいのは夜だ。眠れない。(中略)保育園からバレー部まで、いろんなことが頭に浮かんでさけびそうになって飛び起きる。家の中は静まり返っている。頭の中を『どうしてこうなった』って言葉がぐるぐる回る。

出典:「セパ!」より引用

 作者の虹山さんも、以前、別の仕事をしていたとき、ストレスから体調を崩して職場に行けなくなった経験があります。1人で鬱々(うつうつ)としていました。
 気分転換がしたいと思ったとき、小学生のころ、一時期は毎日のように書いていた小説を、もう一度書いてみようと思い立ったそうです。
 「物語を書き始めたときは、翔が自分自身のようでした。しんどくて、お休みをして。とりあえずこれでいいんだ。しんどい時は逃げていいんだ、というメッセージを出したかった」

 スポーツの話を書きたい――。虹山さんは、物語の題材を探して、セパタクローの動画を見つけました。選手が軽々と飛び上がり、バレーボールのように、ネット越しに足でスパイクを打ち合う「空中の格闘技」とも言われる姿に、「かっけえええええ! これしかない!」と思ったそうです。

2014年、韓国・仁川であったアジア大会のセパタクロー男子団体中国―インドネシア。2メートル近くの跳躍で空中戦が繰り広げられた=矢木隆晴撮影

2014年、韓国・仁川であったアジア大会セパタクロー男子団体中国―インドネシア。2メートル近くの跳躍で空中戦が繰り広げられた=矢木隆晴撮影

  

セパタクローの衝撃

 翔も、家族に気づかれないように部屋を抜け出し、体を動かすため公園に通っていたある日、謎の小学生と出会って、セパタクローを紹介されます。「全身の血が沸騰するような」興奮を感じました。プラスチックでできたカゴのようなボールでパスやリフティングの練習をしながら、顔がにやけます。

ここにはあいつがいない。何だこの開放感。体が軽い。だれにも比べられずに好きなようにやれるのってこんなに気分がいいものなのか。

出典:「セパ!」より引用

2014年アジア大会で、得点を決める日本代表の寺本進選手=竹花徹朗撮影

2014年アジア大会で、得点を決める日本代表の寺本進選手=竹花徹朗撮影

  

逃げまくることも、かっこいい

 虹山さんが好きなシーンがあります。ようやく自分の居場所と思えるセパタクローに出会った翔でしたが、また、周りの目を気にして練習に行けなくなってしまいます。1人で練習していたときの場面です。

リフティングだけでは物足らない。パスがしたい。(中略)なぜ俺は1人でリフティングをしているんだ?(中略)
母親がごみでも見るような目で見るからか? 父親に空気のように無視されているからか?
(中略)足元にボールが落ちる。テンとかわいた音がした。

どうでもいい。ホントにどうでもいいな。

セパタクロー以外のことは、どうでもいい。

出典:「セパ!」より引用

 この後、翔は自転車に飛び乗り、練習場に向かって走ります。虹山さんは「そこからの爽快感。書いていて楽しかった。人の目よりも自分の気持ちを大事にし始めた瞬間だからだと思います」と言います。

 セパタクローと出会って、変わっていく翔。コミュニケーションが苦手なのに、仲間を集めるため人に声をかけ、練習場所を確保しようと奮闘します。

 「翔は逃げまくるわけです。でも翔を見て、ちょっと『かっこいいな』というか、『これはこれでありだな』と思ってくれたら良いと思います」と虹山さんは話します。

セパタクローの公式球を見つめる虹山さん。「私が心をひかれたのは、セパタクローのボールが閉じていないところ。何も詰まっていない、風通しのいいボールです」

セパタクローの公式球を見つめる虹山さん。「私が心をひかれたのは、セパタクローのボールが閉じていないところ。何も詰まっていない、風通しのいいボールです」

  

うまくしゃべれないところも、全部いいところ

 もともと仕事などで子どもと出会う機会がたくさんあった虹山さんは「私は、子どものうちが一番しんどいと思っています」と言います。

 幼い頃の虹山さんは、ときどき、「私って、浮いている?」と感じるような、なじめなさがあったと言います。翔と同じく、万能な兄がいて、虹山さん自身は普通にしているだけなのに周りにがっかりされる、そんな自分にがっかりすることもありました。自信がないときや、失敗したときに、そのときの気持ちが頭をもたげてきます。

 虹山さんは「周りはつい『がんばりなさい』とか、『もうちょっとやれるんじゃないの?』って声をかけてしまう。でも子ども自身は、みんな必死なんです。何も考えていなさそうに見えても、本当は親にはちゃんとほめてもらいたいし、自分は学校でうまくやれているって思いたいから」と話します。

翔はややこしい性格ですが、打ち込むものを見つけたらまっすぐなところも、自分の殻に閉じこもるところも、立ち直るのに時間がかかるところも、友だち思いなところも、うまくしゃべれないところも、全部いいところだと思って書きました。(中略)自分のことをすきになったり、しんどい時はにげてもいいんだと感じてもらえたらうれしいです

出典:「セパ!」のあとがきより引用

  

困ったときは人をたよってええんよ

 物語の終盤、翔はまた、過去のトラウマがよみがえり、再び部屋から出られなくなってしまいます。

 そんな時、セパタクロー仲間がかけた言葉があります。

壁作る前に思ってること言えよ! 『困った時は人をたよってええんよ』ってうちのばあちゃんも言ってたぞ

出典:「セパ!」より引用

 虹山さんは、翔のような子どもたちに呼び掛けます。「友だちでも、大人でも、電話相談でもいい。信用できる人を見つけて、話をして。きっとわらわず、しからず、ただ話を聞いてくれる人がかならずいます。もしがっかりするような答えが返ってきたとしても、少なくとも、人に相談できた自分は、前の自分よりパワーアップしているはずです」

 虹山さんが寄せた直筆メッセージ