いじめニュース速報@イジ速

いじめ事件 ・イジメ ニュースを発信中!スマホいじめが増加!子供達をいじめから守ろう!

いじめを受けた女子「公立中に進学してたら死んでたかも」

chugakuzyuken10

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 筆者は私立中高一貫校の取材を続けて久しいが、知れば知るほど不思議に感じることがある。それは「この学校、いいな」と思う学校からは、必ずと言っていいほどに“発酵臭”が漂ってくることだ。

 “匂い”を言葉で説明するのは、とても難しいのだが、強いて言えば、それぞれの学び舎が長い年月をかけて熟成させてきたであろうオリジナルの匂いだろうか。よって、筆者は、(全国で言えばほんの数校ではあるが)学校独自の匂いを嗅ぎ分けられる力を身につけ、知り合いになった人の出身校を言い当てることができるようになった。

 その匂いが大人になってからも漂っているということは、思春期の6年間で吸い込む空気は、その人の一生に大きな影響を与えるのだと、しみじみと思うのである。人は「置かれた場所で精一杯咲くことが大切」だと思うが、親たる者、我が子を「咲きやすい場所に置いてあげる」ことは本当に大切なことだ。

 先日、取材した、人気進学校である男子中高一貫校の先生は、筆者にこうおっしゃった。

「ここはね、3分の1の生徒は共学校ではとてもやっていけない野郎共なんですよ。多分、女の子がいたら、素を出せずに引きこもってしまうような奴らです。もしかしたら、女の子からはイケてない認定をされ、『キモい』とか『オタク』とか言われて、蔑まれるかもしれない。そういう奴らにもウチには居場所がある。それどころか、オタクは一目置かれる存在です。アニメ、乃木坂46、電車、ゲーム、いろんなオタクがいますけど、皆が『アイツのあの面はすごい!』って素直に認める土壌がある。『アイツはあれに関してはピカイチだから!』って、そういう互いにリスペクトし合える面があるんです。愛すべき奴らのためにもね、ウチはこれからも、堂々としっかり立っていきますよ」

 人は生涯“承認欲求”というものを持つが、青春と呼ばれる時代にこそ「自分そのもの」という存在自体を認められる“安心感”の中で人は育まれるべきだと、筆者は思っている。“自分はこの世にいていい”“むしろ、生きるにふさわしいに人間である”と、その空気で丸ごとの自分を包んでくれたならば、人はたとえ、その先の人生で心折れる経験をしたとしても、再び、何度でも、立ち上がることができるのだという事例を、さまざまな取材過程で知ったからだ。

小学校でいじめに……環境を変えるための中学受験

 

 ある中高一貫女子校に入学した麻美さんという名の生徒さんの話をしよう。麻美さんは、本人いわく、天然パーマで、とても細く、また色白だったことで病弱に見えたのか、小学校ではスクールカーストの “いじめてもいい”という最下層に位置付けられていたそうだ。

 「ノートに落書きされる、筆箱は勝手に回される、誰も口をきいてくれない、『汚い』『ブス』『死ね』は、もはや『おはよう』という“ご挨拶”の言葉と同じだった」と、麻美さんが、そのつらかった小学校生活を振り返って、筆者に教えてくれた。

「多分、私、学習障害だと思うんです。数字が極端に苦手で、それもあって勉強も苦手で、ドンドンと自信がなくなっていって、あの頃はいつも『死にたい』って思っていました……」

 麻美さんのお母さんはこの様子を大変憂いて、娘の環境を変えるべく中学受験をした方がいいと決断。それから、麻美さんに合う学校を探して、母子で何校かの学校見学に行き、ある女子校にたどり着いたという。

 お母さんが、学習障害の話も含めて、教頭先生と話をしていた時、麻美さんはそこから離れて、校内に置かれたベンチに座っていたそうだ。すると、通りかかったおばあさんが麻美さんに気が付き、こう声をかけてきたという。

「あらあら、可愛いお嬢さんだこと! (花壇の)お花を見てらっしゃるの? このお花はね、生徒たちが手入れしているのよ」

 普段、同級生から「ブス」と言われ続けているだけに、「『可愛い』なんて言葉が自分に対して発せられたことが不思議だった」という麻美さん。そして、そのおばあさんは、「あなたも中学受験を考えているの? そう、きっと、毎日楽しいなって思える学校にご縁があると思うわ。あなたが求めたならば、その扉はきっと開きますからね」とだけ告げ、麻美さんの元から立ち去ったらしい。麻美さんはその時、校舎全体があったかい空気で包まれているように感じたそうだ。

学習障害は、友達が支えてくれた

 

 春が来て、麻美さんの姿はその学校の入学式にあった。その時、麻美さんは「あっ!」と小さな声を上げたという。なぜなら、壇上には、あのおばあさんがいらしたから。なんと、おばあさんはその学校の校長先生だったのだ。そして、早くも6年の歳月が過ぎ、この春、麻美さんは同校を卒業し、筆者にこう教えてくれた。

「もし、この学校に出会わなかったなら、もし、あのまま地元の公立中学にそのまま進学していたなら、私は今、この世にいなかったかもしれません……。ここでは天然パーマをいじられることも1回もなく、むしろ色が白くて細いなんて羨ましいと言われ続け(笑)、徐々にですが、容姿に対するコンプレックスが薄まっていったんです」

 麻美さんの知る限り、いじめとされるような出来事も一切なく、悔しい時にはみんなで泣き、うれしい時は本気で笑い……ということを丁寧に重ねていった6年間だったと、回想してくれた。

 問題の学習障害の方は、こういったやり方でクリアしていったそうだ。

「私の数学の点数があまりに悪い時も、先生方は決して見放さず補習をやり続けてくださいましたし、数学が得意な友達が、勝手に『麻美を留年から救う会』を立ち上げてくれて、みんなが助けてくれたんですよ」

 これぞまさに、学習障害を持っている我が子を、親が「咲きやすい場所に置いてあげた」ということなのだろう。学校オリジナルの発酵臭に包まれる時、人は安心して、自らの存在を肯定し、そして他者の存在を肯定する人間になっていくのかもしれない。

「りんこさん、私、あの時、校長先生がかけてくださった言葉に支えられています。『求めたならば、その扉はきっと開く』って。実は大学受験の時も、校長先生は私に同じことをおっしゃったんですよ(笑)」

 麻美さんは今、難関とされる大学で青春を謳歌している。「夢は学校カウンセラーになって、私のようにいじめでつらい思いをしている子どもたちの力になることです」と力強く語ってくれた。

 オリジナルの発酵臭が漂う学校には“マジック”がある。たとえ、小学校時代は、傷付き、涙に暮れていた子どもであっても、その6年間で傷を癒やし、再生していく。そればかりではない。「誰かの何かの役に立つ!」という生き方を力強く選択していく子に成長させる……そんな“マジック”のタネとなるのがこの発酵臭なのだ。

 その“マジック”を見せられる度に、筆者は「学校っていいな、仲間っていいな」と思うのだ。