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動かぬ学校に立ち上がる母

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「これで誰が書いたかがわかります。(投稿した人は)反省してほしい」

 こう話すのは埼玉県川口市立戸塚中学校に通っていた当時、いじめを受けた男子生徒(16)。

保護者や生徒の間で流れていた誹謗中傷が、インターネットの匿名掲示板にも波及した。いじめ被害生徒の実名やあだ名も書かれ、被害生徒の母親は投稿者を特定するための裁判を起こした。

発信者の特定

 東京地裁志賀勝裁判長)は12月10日、掲示板に書かれた内容は「他人にみだりに知られたくない」個人情報だと認定。その上で通信事業者に対し、契約者の情報(発信者情報)を開示するように命じた。

 ネット上では、

 “卑怯ないじめっ子の名前がいよいよ暴かれる!”。

 と騒がれている。

 誹謗中傷が書かれたのは、“地域に特化したローカルコミュニティサイト”と銘打っている匿名掲示板「爆サイ」。月間9億ページビューがある大型掲示板だ。

 その中の「関東版」に「埼玉雑談総合」があり、さらに、その関連で「川口市雑談」というコーナーがある。そこには様々なテーマについて書き込まれていて被害生徒の名前が書かれたのもそこだった。

 被害生徒が中学3年だった2017年10月1日、スレッドが作られた。

 裁判では、実名とあだ名を示した書き込みについて、特に、プライバシー侵害だとして、書き込みに利用した端末の契約者の情報の開示を求めていた。

 我が子の名前がひどい内容とともにネットに晒されたらー。まずは発信者を特定することが必要となる。

 発信者情報を特定するステップはこう。

 まずは、掲示板の管理人に対して、IPアドレス(ネット上の住所のようなもの)の開示を求める。掲示板の管理人に直接請求するが、レンタルサーバーの場合は、管理者だけでなく、そのレンタル事業者へも請求できる。

 被害生徒の名前が書き込まれた『爆サイ』の場合は、管理者の情報は公開されていない。そのため、問い合わせフォームから連絡することになる。

 管理者が応じない場合は裁判所を通じて、開示請求を行う。開示されれば、そのIPアドレスから通信事業者(携帯電話事業者やインターネット接続事業者)が判明する。

 その通信事業者に対して、さらにIPアドレスを割り当てられた契約者の情報(名前や住所など)の開示を求める。開示に応じない場合は提訴する。裁判所の開示命令が確定すれば、情報が開示され、個人が特定できる。

 判決では、

(1)スレッドのタイトルに学校名が書かれており、本文中にも実名や本人と簡単に連想できるニックネームが書かれていたこと

(2)このいじめの件は17年9月に新聞で報道されていたが、実名は掲載されていないこと

(3)記事が掲示板にコピペされていたが、その中の投稿で、実名が載せられていたこと

 などを認めた。

 その上で、この行為は「第三者が取得ないし、開示する行為は、本人が認める場合、受忍限度の範囲と言える場合などでない限り、プライバシーを侵害する」と、判断した。そして、通信事業者3社に対して、発信者情報を開示するように命じた。その後、通信事業者が開示し、個人名がはっきりした。

 被害生徒の母親は、

「書き込みは嘘ばかりで、嘘が広められたら、息子にどんな影響を与えるかわかりません。自転車に乗っていたことなど日常的な行動まで書き込まれていました。怖いです」  

 と話す。裁判までしたのは子どもを守るためだ。

裁判の結果、個人が特定できたことについて被害児童は「これで(いじめの深刻さを)いろんな人に伝えられるのでよかった」

 と安堵した。母親もこう話す。

「匿名で書かれることは相手が見えません。バレないと思い、エスカレートしていきます。しかし、被害者は傷つくんです。こちらは警戒もできませんし、不安や恐怖にさいなまれます。書き込んだ人には、反省をさせたい」

 ただ、匿名掲示板で誹謗中傷され、学校でのいじめがネットにも発展していったのは、「学校の不適切な対応が背景にあった」と母親は指摘する。

謝罪する校長、でもいじめは否定

 被害生徒がいじめを受けるようになったのは、中学に入学した15年5月。サッカー部に入部すると、同級生の間でLINEグループができた。しかし、2日後、なぜか、被害生徒はグループから外された。

 そのことを知った教員がグループ参加者全員に注意した。被害生徒は「チクった」と言われるようになり、無視されたり、仲間はずれにされた。そんなとき、LINEでこんなメッセージが送られてきた。

「しねかす」

「ごみおつ」

 部活の練習中にもいじめがあり、暴力を受ける。16年3月には、親しかった部員からもLINEでこんなメッセージが送られてきた。

「仕切るな」

 繰り返されるいじめによって、被害生徒は16年9月、自傷行為におよび、不登校になった。母親によると、校長は自宅を訪ねてきて、

「1年生の頃から嫌がらせ等されていたことは認識してました。学校としての配慮が欠けていたことは申しわけございません。重く受け止めます」 

 と謝罪したという。

 一方で、校長は、周囲にはいじめを否定してきた。

 サッカー部の保護者会では学校側はいじめを否定し、いじめ加害者の保護者にだけ発言が許された。

「私が話をしようとすると、“その話題じゃない”と言われて、司会者に発言を止められました。教頭先生は“LINEはただの文字です”といい、問題視されませんでした」(被害児童の母)

 その後も保護者への説明では校長は「いじめはない」との説明を繰り返したという。

 しかし、埼玉県教委や文科省は、学校の対応は不十分として、川口市教委に対して指導・助言をする。市教委も学校に対してきちんとした説明を求めた。

 学校側は「子どもたちが部活を引退する前に話し合いの場をつくる」と約束するが、反故にされる。家庭訪問をして、一人ひとりに説明するとも言ったが、のちに家庭訪問をしてないことも判明する。文科省や県教委が繰り返し指導・助言したにかかわらず、改善されないため、校長は文科省に呼び出された。異例のことだった。

 そんな中で、いじめの結果、不登校になった疑いがある「重大事態」として、市教委の「いじめ問題調査委員会」が17年2月に立ち上がっていたことが新聞報道された。

「いじめの重大事態と扱っていることについて、これより前のサッカー部の保護者会で学校側が説明するはずだったんです。でも、しませんでした。そのときから、“親が騒いでいるだけ”などの誹謗中傷が始まったんです」(同)

 この新聞記事を元に、「爆サイ」にスレッドが立ち上がった。当初は書き込みが少なかったが、全校保護者会が開かれた10月20日前後から、書き込みが活発になった。

ネットいじめは阻止できるのか

「これまで学校は説明会をしないと言っていましたが、文科省に“保護者たちが報道で事実を知るというのはありえない”と指導されました。その際、説明会で何を伝えるのか、学校ときちんと確認し合いました。文科省の指導で県教委も立ち会いました」(同)

 学校側はようやく対外的に、被害生徒がいじめによって不登校になったことを認めた。

 しかし、ここでも虚偽の説明が行われた。たとえば、シューズの裏に「しね」と書かれていた。この件に特化したアンケートを実施したと説明したが、実際にはしてないという。

「“教師一丸となって、学校全体でいじめ問題に全力で取り組んでいる”との説明もありましたが、他の保護者からも、自身のこどものいじめ対応について、“うちの子どももLINEで嫌がらせを受け、1か月以上前に相談しているが、連絡がない”などの声が上がっていました」(同)

 この説明会では、ネットへの書き込みについても注意喚起するはずだったが、説明もされず、これまで保護者や生徒の間でなされていた誹謗中傷がネットに飛び火する形になった。まずは加害生徒の名前が出され、被害生徒の名前も出されていった。

 担当した荒生祐樹弁護士は「これまでいじめの加害者が誹謗中傷を受け、名誉やプライバシーが侵害されたことを理由に発信者情報開示の裁判に至ったケースはいくつか見られるが、いじめの被害者が発信者情報開示請求を行い、判決にまで至ったのはそれほど多くないのではないか」と、異例な裁判だったことを明かす。

「いじめの被害者は、加害者を含め匿名で中傷する人たちを許せないのは当然だと思うが、辛い思いをしている中、ここまで行動を起こすことはとても難しいのが現実だと思う」(荒生弁護士)

 発信者が判明すれば、今後、名誉毀損の損害賠償請求訴訟が可能になる。ネットいじめの抑止や対抗策になり得るのだろうか。荒生弁護士はこうも指摘する。

「今回の判決の意義は、いじめ被害を受けたことはプライバシーとして法的保護の対象となる、と裁判所が示した点にあると考えます。投稿者を特定できれば法的責任を追及することができます。書き込み全体からすれば、氷山の一角に過ぎないかもしれませんが、今後、匿名で安易にネットいじめに加担しようする人に対して、大きな抑止力になると思います」

 いじめ問題に取り組む、NPO法人ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里理事は、

「ネットいじめに関する相談はきていますが、今回のように個人を特定するケースはほかに聞いたことはありません。良い影響があればいい」

 と話す。

 判決は、今後の活動にどう生かされるのか。

「自由に情報発信できる時代ですが、履き違えた発信もあります。学校の講演ではメディア・リテラシーについて、例えば、自分が発信した情報をどこまで検証していくのかなどを話しています。今回の内容も間違いなく、伝えていきたい」(小森理事)

 開示命令はいじめの加害者に反省を求める機会となる一方で、男子生徒のPTSD(心的外傷ストレス障害)は未だ改善されない。

 被害者の心の傷はなかなか癒えない。なお、いじめの対応に関して、被害生徒は川口市を訴えている。12月の口頭弁論で市側は、事実関係の一部を否認して、争う姿勢を示している。