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自分をいじめた中学教師に“思いのたけ”を… 迷う23歳

成功してもうまくいかなくても、この努力はふみえさんを成長させる

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鴻上尚史の人生相談。自分を嫌いいじめ続けた中学時代の教員の記憶にいまでも苦しむ23歳女性。教員に「思いのたけ」をぶつけようかと迷う相談者に、鴻上尚史が教授する冷静な自己分析と大切なことを伝えるための4ステップ。

【相談52】自分を嫌っていた教員の記憶に区切りをつけたいです(23歳 女性 ふみえ)

 自分を嫌っていた教員に会いに行くか迷っています。私は中学生だった頃、一人の教員に嫌われていました。その教員は私の容姿や言動の特徴をあげつらい、いじめてきました。腹立たしいのは、授業中の冗談の一環や注意の体をとっていたことです。授業もうまく、人気のある教員だったので、それだけで生徒たちに「あいつには何を言ってもいい」という印象を植えつけていました。おかげで中学卒業まで私は他の生徒にバカにされ続けました。思春期の間、その先生にずっと苦しめられ、「なぜ私はこんなに嫌われるのか」と悩みました。

 卒業してその後、私はその教員より有名な大学に入り、優しい恋人もできました。そして、あの教員も一人の人間として弱さを抱え、悩みながら働いており、それなりに苦しかったのだとわかるようになりました。

 でもいまだに、ふとした瞬間に中学生の頃に引き戻され、腹立たしさと悲しさでいっぱいになります。一生こんな思いをするのは嫌です。そこでいっそ、同窓会でもクラス会でもなんでもいいので、あの教員に会ってみて思いの丈をぶつけてみようかと迷っています。謝罪してもらえなくても、許せなくても、なにか区切りをつけられるのではないかと思います。

 同時に、「そんなことしても自分で傷口に塩を塗るだけではないか」とも思うのです。どちらの気持ちを天秤にかけても、同じくらい迷います。鴻上さん、ヒントをください。

【鴻上さんの答え】
 ふみえさん。ヒントもなにも、ここまで思っているのなら、直接会って、正直に言った方がいいと僕は思います。

 ふみえさんは23歳ですから、8年ぐらい前の話ですかね。先生も、まだ年老いていないでしょう。早く会って、思いのたけをぶつけてみたらどうでしょう。それが一番、精神衛生上、良いと思います。

ただし、その時、いきなり、「バカ野郎!」とか「ふざけるな!」「絶対許さない!」と怒鳴るのではなく、必死で感情をコントロールしながら、ふみえさんが僕に説明してくれたように、ひとつひとつ、順を追って説明して下さい。

 相手の教師は、授業もうまく、人気もあるということは、話術に長けた人でしょう。そういう人に、大人になって挑戦するのです。周到に準備しないといけません。そうしないと、簡単に反論されて、ねじ伏せられてしまうかもしれません。

 大切なことを伝えるためには次の4つのステップが必要です。

 まず、一つ目は「相手のしたことを具体的に示す」です。ひどいことをした、なんていう抽象的なことじゃなくて、どんなふうに容姿をあげつらったか、授業中に何を言ったかを、ひとつひとつ具体的に説明するのです。

 二つ目は、「その結果、あなたにどんな影響があったかを具体的に説明する」のです。これも、ただ「傷ついた」とかではなく、「どんな気持ちがしたか」「どんなことが起こったか」「どんな精神的傷を受けたか」を言うのです。

 そして三つ目は、「今、現在の感情を冷静に伝える」ということです。教師を目の前にした自分の感情です。たぶん興奮して、怒りと恐怖に包まれて、混乱すると思いますが、それを冷静に伝えるのです。「あの時のことを思い出して、今、怒鳴りたくなっています」とか「あなたを前にして、許せないという気持ちが溢れています」なんてことです。

 そして四つ目が「冷静に自分の希望を語る」のです。「冷静」ということが一番、大切です。

 謝って欲しいのか、どうしてこんなことをしたのか説明して欲しいのか、ただ話を聞いて欲しかっただけなのか。

 これは、僕の著作『コミュニケイションのレッスン』の中の「交渉する」という項目のテクニックです。

 本当に大切で重要な交渉の時、気持ちは高ぶって感情的になりがちです。でも、感情に振り回されたら、何も伝わりません。本当に大切なことを伝えようとする時に、感情的になったら負けなのです。

日本人はつい、「気持ちがあれば必ず伝わる」と思い込もうとしますが、残念ながら願望であり、ただの誤解です。

 ふみえさんが一大決心して、教師に会うのです。ただ感情的になって、混乱して、うまく伝えられず、教師にも反論されて、結果的に「会うんじゃなかった」と後悔しないようにしないといけません。

 そのためには、各ステップで言うことを整理して下さい。

 そして、目の前に教師がいるつもりで、何度もシミュレーショントレーニングをするのです。椅子をひとつ目の前に置いて、そこに教師が座っているとイメージしながら話しかける、なんていう方法が有効だと思います。まるで演劇のセリフのように、繰り返し練習して、興奮していても混乱していても、順を追って話せるようにするのです。

 どうですか、ふみえさん。

 大変だなと思いましたか? 自分が本当に思っていることを、ちゃんと相手に伝えることは、とても大変なことなのです。

 ただ感情を発散することは楽ですが、それでは何も伝わりません。感情を爆発させることも、事務的なことを冷静に伝えることも簡単です。

 一番しんどいことは、「感情が爆発しそうなことを冷静に伝える」ことです。

 とても難しいですが、これが「いまだに、ふとした瞬間に中学生の頃に引き戻され、腹立たしさと悲しさでいっぱいになります」という状態から抜け出す、一番確実な方法だと僕は思います。

 なによりも、ふみえさん。そんな交渉ができるように努力することは、魅力的な大人になるレッスンです。ひどい教師への対決の練習が、素敵な大人になる練習になるのです。まさに一石二鳥です。成功してもうまくいかなくても、この努力はふみえさんを素敵に成長させると思います。

健闘を祈ります。