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コロナ禍で差別やいじめが起きるメカニズム

新型コロナウイルスの感染拡大で、医療関係者への差別などが問題になり、最近では、子どもたちの間でコロナに関して、いじめが起きていると聞きます。

 そこで、いじめ研究の第一人者で、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故に関する風評被害やいじめについて調査し、学校のいじめについても、多くの報告をしている星槎大学教授(東北大学名誉教授)の仁平義明先生にお話を伺いました。

新型コロナウイルス感染症対策に奮闘する医師や看護師ら医療従事者に敬意と感謝の気持ちを示すため、自衛隊中央病院の上空を通過する航空自衛隊・曲技飛行チーム「ブルーインパルス」(本文と直接関係はありません)=2020年5月29日、東京都世田谷区【時事通信社


 ◇風評被害が起こりやすい条件

 海原 今回の新型コロナに関連する差別やいじめについては、原発事故の時と共通するものがあるように思いますが、先生はどのように感じていますか。

 仁平 海原先生のご心配の通りでしょう。3.11の原発事故でも、今回の新型コロナウイルス感染症でも、風評被害が起こりやすい条件がそろっています。

 その条件は三つあります。一つは、放射性物質放射能、ウイルスのように目に見えない、対処しにくい恐怖・不安の対象があること。

 もう一つは、国や行政機関が、危険の可能性を広く知らせているのに、その安全の基準が不変ではなくて、途中で揺らいでしまっているために、何を信頼してよいか、分からなくなる事態が生じていること。

 三つ目が、自分だけでなく、家族全員に危険が及ぶ可能性があり、守ろうとするものがあるということです。

魚市場でサイズを選別される銀ザケ。東日本大震災津波で養殖施設が壊れ、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の風評被害で苦境に立たされる中、水産業者らは銀ザケ養殖の復活に取り組んでいた=2013年5月撮影、宮城県女川町【時事通信社


 海原 確かに、いずれも3条件がそろっていますね。

 仁平 「風評被害」には2通りあります。一つは、「風評」の文字の通り、根拠のないうわさ、事実と違ううわさが流れることで起こる被害、特に経済的な被害です。

 もう一つの方が、実は風評被害の本質です。恐怖・不安の対象が、そのもの以外の、関連するものにどんどん広がっていくことで、被害が起こるという、人間の心理です。

 これは、恐怖・不安の対象が広がっていく、一般化するという意味で「般化」と呼ばれる現象です。

 例えば、原発事故の風評被害では、実際に基準値を超えていた海産物に対する恐怖・不安が、同じ食品である、安全なはずの基準値内の農作物に広がって、避けて購買しなくなる行動が起こっています。それは、農産物から少し距離のある、食べ物ではないお花などにも起こります。

 ◇いじめ+風評被害=厄介な問題

 海原 なぜ、そうした心理に陥るのでしょうか。

 仁平 風評被害の本質は、根拠のないうわさという、全く誤ったものではなく、危険なものは、それと関連するものも含めて、避けた方が安全だという、人間のごく自然な安全弁のような反応です。

 原発事故の風評被害の調査をしてみますと、「風評被害」としての購買の回避行動は、守るべき子どもを持つお母さんほど、強く表れる結果になっていました。

風評被害の原因となった東京電力福島第1原発事故。写真は東日本大震災発生から6日目の3号機。自衛隊ヘリコプターから同社社員が撮影した[東京電力提供]=2011年3月16日撮影【時事通信社


 海原 こうした一般化心理と風評が結び付くことと、いじめは関連があるのでしょうか。

 仁平 いじめが風評被害と結び付くと、般化反応の自然さと広がりやすさのために、厄介な問題になります。

 いじめは、いじめられる子を集団から孤立させて、「一対多」の弱い者にして、いじめをするというのが基本的なやり方です。

 そのために「非人間化」、つまり人間ではない「物」「異物」「危険物」としての呼称(バイキン、放射能など)を用いて、自分たちの仲間ではない者、時には人間ではない物なのだから、いじめても悪くないのだ、と合理化することがよく行われます。

 新型コロナウイルス感染症の場合、恐らく「コロナ」と呼んで、非人間化をするのが容易に行われる危険があります。

 「うつる」といって孤立させるのも、いじめの常とう手段ですが、これも全く自然に起こってしまう可能性があります。

◇首謀者は受けのいい子

 

新型コロナウイルス対策で、空席を設けてホームルームを受ける生徒ら(本文と直接関係はありません)=2020年6月撮影、東京都八王子市の都立南多摩中等教育学校時事通信社

 海原 みんな、口では「いじめはやめよう」と言いますが、実際、政府や自治体などで、いじめられている人を守る対策がなされていないように思えます。行政や学校の現場で、何か必要な具体策があれば、教えてください。

 仁平 学校でいじめが起こる仕組みは、これは子どもを対象にした海外の調査ですが、だんだんと本当の様子が分かってきました。

 まず、いじめの首謀者になる子は、漫画「ドラえもん」に出てくる粗暴なジャイアンではないということです。

 首謀者になるのは、例え小学生の高学年でも、アメとムチの両方を使い分け、同級生たちを巧妙に動かす能力の高い子どもだということでした。

 威張ったり、脅したりだけしかしない、という下手な人の操り方はしない子です。人気の点でも、学級では一番高い子です。一般に先生の受けもいい。

 いじめをする動機も、他の子に対する優越性、自分が他の子の上にいることを確認するためだという結果でした。

 いじめの首謀者の子分になる子、いじめ側に立ってはやし立て、いじめを盛り立てるような子も、同じような質の子です。

 いじめを受ける子からすると、辛いのは「いじめられること」そのものもさることながら、そんな自分に誰もが無関心ということが、一番辛い経験だったと感じているとの報告がなされています。

 無関心をなくすといっても、災害の時、そうだったように「一人にはしない」などと言葉で言われるだけでなく、具体的に行動が起こされることが、いじめられる側、被災側には支えになります。

交差点の広告スペースに掲げられた医療従事者への感謝のメッセージ。不動産会社の広告スペースだが、「自分たちにも何かできることはないか」と社員が考えたという(本文と直接関係はありません)=2020年4月撮影、横浜市


 ◇いじめを止める方法

 海原 具体的な行動としては、どんなことがいいのでしょうか。

 仁平 いじめを止めるには、いろいろな方法がそれぞれ有効だとされています。

 一つには、いじめられる子が最も辛かったという「無関心」をやめて、傍観しているだけの子に対して、みんなが力を合わせて守る側に回れば、いじめは止められることを、動画やゲームを使って教えるという方法があって、効果的だとされています。

 ただ、傍観している子たちも、無関心というわけではなくて、自分が無力であることに苦しんでいるという調査もあります。

 もう一つ、提案されているのは、いじめがそもそも起こらないようにするという方法です。

 いじめの首謀者が、自分が他の子よりも力があることを示したいというのが、いじめの動機になっているというのなら、いじめ防止の運動のリーダー、例えば「いじめをなくす委員会」の委員長にして、そのことで力を発揮させるという、首謀者の方向転換策です。

 もともと能力の高い子ですから、そこでも力を示すことができて、満足感があります。実際に、それで成功している先生もいます。

 海原 それは非常にいい方法のように思えます。いじめて優越感を示すということは、自分の自己肯定感が実は本質的にないことの証明のように思えますから。

 仁平 いじめを止めるには、一つ一つの方法を考えるのもさることながら、子どもたち、教職員、親たち、関係者の全てが「できることを全てやる」「みんなが見ているぞ」「みんなが黙っていないぞ」というのが基本です。

 海原 
見て見ぬふりをしない姿勢と行動が、特に教師には必要ですね。

 仁平 いじめを経験した子の調査では、いじめを止める力になっていた一番の人は、同級生たちではなくて、やはり学校の教師たちだったという報告があります。そのことを考えると、学校でのいじめでは、教師の役割は大きいでしょうね。教師はそのことを自覚してほしいものです。

◇マイナス要因をぼかす文化

 

新型コロナウイルスの感染を調べるPCR検査。写真は東京都板橋区PCRセンターで行われたデモンストレーション=2020年4月28日 【時事通信社

 海原 今、日本では、感染した人が謝るという状況です。全く気分が暗くなってしまいます。責められるのが怖くて検査を受けなかったり、調子が悪くても隠してしまったりする傾向につながるような気がします。こうした傾向を是正する対策があれば、教えてください。

 仁平 検査を受けて罹患(りかん)を明らかにする傾向が低いのは、多分、今回の新型コロナウイルスに限ったことではないかもしれません。

 乳がんや子宮頸がん検診の日本人の受診率は、米英よりも、お隣の韓国よりも、ずっと低いですね。米国では両方とも8割を超えているのに、日本のそれはせいぜい4割で、半分以下です。

 わが国の文化には、特にマイナスのことをはっきりさせるのを恐れて避ける傾向があるのかもしれません。

 いじめ首謀者や他の役割の子どもの特徴を明らかにする調査が行われているのは海外だけで、日本では行われないために、いじめ対応が「豊かな心を育てる」など、観念的になりがちなのも、そのような文化が関係している可能性もあります。

 新型コロナウイルス感染症で検査を受けなかったりして、感染を曖昧にしようとする傾向があるとすれば、こうしたマイナスのことは、できるだけ自分にも他者にも明らかにするのを恐れる文化が関係しているかもしれません。

 また、近世日本の「連帯責任文化」が残っていれば、身近な人にも影響が及ぶのを恐れて、回避する傾向に拍車が掛かるでしょう。

 文化的な背景があるとしたら、自発的な受診率を上げるには、陰性であることを明示して、接客や業務を行うというやり方だけでなく、検査を受けて陽性であったときに、その後の公的な対応が、温かい実質的なもので、他者への感染を防いだことを積極的に賞賛することが必要でしょう。

 それでも、自発的な受検には抵抗が残るかもしれませんね。

 海原 風評被害、感染者への差別やいじめの背景と、日本社会の持つ文化的背景について、明確にご指摘いただきました。

 こうした文化的な背景から起こる心理については、それに気が付かないと、是正することができません。

 きれいごとのスローガンではなく、事実を直視するために必要な調査を積み重ねることが大事なのに、そうした重要性をどれくらい政府が理解しているのか、真剣に取り組む気があるか。そのことが一番の問題だと思いました。

 

(文 海原純子

 

 



 仁平 義明(にへい・よしあき)
 星槎大学大学院教育学研究科教授、白鷗大学・東北大学名誉教授。日本学術会議臨床医学委員会「出生・発達分科会」委員、同心理学・教育学委員会「行動生物学分科会」委員。カラスがクルミを自動車にひかせて中身を食べる「自動車利用行動」の世界最初の報告者。著書は「防災の心理学―ほんとうの安心とは何か」(編著、東信堂)など。