大人のネットいじめ
インターネットがない時代にもいじめはあった。ただ電子メールや携帯メール、ソーシャルメディアが登場し、いじめのハードルが大幅に下がっている。
インターネットを利用する大人の40%がネット上で嫌がらせを受けたことがあり、4分の3近くは他人が嫌がらせされているところを目撃した経験がある――。米ピュー・リサーチ・センターが2014年に行った調査の結果だ。最も被害を受けているのは若い世代で、18歳から29歳までのインターネットユーザーのうち65%がネット上でなんらかの嫌がらせを受けたことがあると回答した。
子どもは10歳までにネット上でのいじめへの対処法を教えてもらうことが多い。残念ながら、大人もネット上のマナーについて授業を受ける必要がありそうだ。
政治家などの著名人は絶えず見知らぬ他人からネット攻撃にさらされているが、ネット上でのいじめは誰にでも起きうる問題だ。しかも、いじめているのが知人というケースも珍しくない。取材中には、生徒や近所の人、昔のガールフレンドから嫌がらせを受けたという話を聞いた。ある夫婦は夫が所有するビルに入居していたテナントとの賃貸契約の更新を断ったところ、嫌がらせを受けたという。
心理学者によると、対面によるコミュニケーションがないと共感を持ちにくくなる。これまでの研究でも相手の表情や反応が見えないと、痛みを与えてもかまわないと思う気持ちが強くなることが分かっている。知らない人への嫌がらせにはテクノロジーも関係している。匿名で書き込めるためマナーを守ろうという意識が薄れている。
いじめる側の特徴
昨年8月に学術誌「コンピューターズ・イン・ヒューマン・ビヘイビア」に掲載された研究によると、ネット上でいじめをする人には、3つの特徴が見られるという。自分の利益のために他人を操作しようとする「マキャベリズム=権謀術数」、自分は他人より優れていると思う「ナルシシズム=自己陶酔」、共感の欠如などの特性がある「サイコパシー=精神病質」だ。
研究のリーダーでウエストバージニア大学の准教授アラン・グッドボーイ氏は「こうした人々は衝動を抑制することができない」と指摘する。「彼らは共感する能力がなく、退屈している。彼らがネット上で他人を挑発するのはそれが楽しいからだ」という。
ではネット上でいじめに遭ったらどう対応したらいいのだろう。
いじめに遭ったら
専門家は、一切反応しないほうがいいと口をそろえる。メリーランド大学ユニバーシティカレッジ校大学院の非常勤教授パトリシア・ウォレス氏は「友達から削除する、フォローを解除する、リンクを削除する」ことを勧める。いじめをする人を携帯電話やソーシャルメディアのアカウントから締め出して、反応してはいけない。
反応しないでいるのがつらい場合は、自分の思いを全てノートなどに吐き出し、そのノートをしまってしまおう。メディア心理研究センター(カリフォルニア州ニューポート)のパメラ・ラトリッジ所長は「書くことで怒りが解消される」と話す。そうすることで「問題があるのはいじめる人であって自分ではないことも認識できる」という。
友達などに楽しい手紙を書いて気持ちを切り替えてもいいそうだ。
インスパイアード・イーラーニング(テキサス州サンアントニオ)のサイバーセキュリティー専門家タイラー・コーエン・ウッド氏は、嫌がらせに遭ったときは自衛のため、日付や時間、内容、メッセージの画像などの証拠を保管しておいたほうがいいと語る。
嫌がらせがソーシャルメディア上で起きた場合は、サイトの運営者に報告するべきだ。ネット上で攻撃された人々を支援する団体に連絡してもいい。米国では多くの州でネット上のいじめを取り締まる法律がある。具体的な脅しがあった場合などは地元の司法当局に報告することもできる。
誰かが嫌がらせに遭っていることが分かったときは、その人に前向きなコメントを投稿しよう。オハイオ大学スクリップス・カレッジ・オブ・コミュニケーションのイノベーション担当副学部長で、ネット上でのいじめと戦う組織「トロールバスターズ」の創設者でもあるミシェル・フェリアー氏は、そうすることで被害者への支持を表明し、嫌がらせをしている人を非難することができると話している。