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「原発いじめ」PTSDリスク

 

福島第一原発事故によってふるさとを追われ、避難を強いられた人たち。その心の傷は、いまも深い。

家や土地、生業やつながりの喪失という未曾有の事態に加え、避難先での慣れぬ暮らし、いわゆる「原発いじめ」などが、大きなストレスとしてのしかかっているからだ。

震災から7年。いま、何が求められているのか。原発避難者の心的外傷後ストレス障害PTSD)のリスクを調べた調査から、見えることがある。

グラフで示しているのは、2017年に福島県南相馬市と関東1都6県で避難生活を送る双葉町富岡町大熊町いわき市の住民(回収数1083件)のうち、心的外傷後ストレス障害PTSD)の可能性がある人の割合だ。

早稲田大学の辻内琢也教授(医療人類学)が、震災支援ネットワーク埼玉(SSN)などとともに、国際的なPTSDの評価尺度(IES-R)を使って震災翌年から調査している。同様の調査は、ほかに例がない。

対象の避難者が同じ追跡調査ではないために単純比較はできないが、PTSDリスクを抱えている人の割合は2012年に67%、2014年に58%、2016年には38%と減少傾向にあった。

しかし、それが2017年には47%と上昇に転じているのだ。

なぜ、PTSDリスクが上昇したのか

 
福島県富岡町(2018年2月)
 
Kota Hatachi / BuzzFeed

福島県富岡町(2018年2月)

 

そもそもPTSDとは、生命の危険や死の恐怖を体験した人たちが発症する精神障害だ。フラッシュバックや不眠、過敏症状などの症状がある。

事件や事故、災害に直面した人に出やすいものだ。辻内教授によると、PTSDの発症率は、自然災害が約4~60%なのに対して、人為災害では15~75%と比較的高いという先行研究がある。

「経済的な困難、賠償交渉、仕事、健康、家族、不動産や人間関係。さらに、ふるさとの喪失や分断。避難者のストレス要因を分析すると、事故のトラウマそのもの以外にも様々な要因があげられます」

こうした複合的な要因が心理的苦痛につながっている福島の原発避難者は、ほかの地震災害(阪神淡路大震災新潟中越地震)に比べてPTSDのリスクを抱えている人の割合が高いことが、辻内教授の調査からは明らかになっている。

孤立化が招いたもの

 
帰還困難区域を通過する国道6号。道沿いの家々にはフェンスが貼られている(2018年2月)
 
Kota Hatachi / BuzzFeed

帰還困難区域を通過する国道6号。道沿いの家々にはフェンスが貼られている(2018年2月)

 

だとしても、一般的にそのリスクは年月とともに減少していくものだ。

実際、1990年にあった雲仙普賢岳の噴火など、過去の災害で実施された同様の調査をみても、年月を経るごとに減少傾向にあったという。

原発避難者の場合でも、2016年まで減少にあった。その値がなぜ、上昇したのか。辻内教授は、背景に「避難者の孤立化」があるとみる。

「賠償や住宅提供の打ち切り、避難指示解除後も子育てなどを理由に避難を継続させる人びとが『自主避難者』とみなされてしまうことで、避難者が孤立化しているのではないでしょうか」

深刻な「原発いじめ」の実態

 
蔦にまみれた双葉町役場の看板(2018年2月)
 
Kota Hatachi / BuzzFeed

蔦にまみれた双葉町役場の看板(2018年2月)

 

もうひとつ、上昇の理由として辻内教授があげるのが、避難先での「いじめ」だ。

辻内教授がNHKやSSNと合同で2017年に実施した別の調査(回収数782件)では、「原発避難を理由に子どもが学校でいじめを受けたことがある」と答えた人は7%いた。

それと同時に、「原発避難に関することで、心ない言葉をかけられたり、精神的な苦痛を感じることをされたりしたこと」があったと答えた大人は、45.9%もいた。

こうした、いわば「大人社会のいじめ」は、8割が近隣や職場の人から受けたといい、その内容は「賠償金に関すること」(82.5%)「避難者であること」(58.8%)「放射能に関すること」(36.8%)などが挙げられている。

「子どもたちが学校でいじめを受ける背景には、大人社会のいじめがある」(辻内教授)のだ。

自由記述欄には、その具体的な内容も記されている。

中学、高校の6年間にわたって、同級生から「放射能がうつるから近寄るな」「福島のやつらは金をもらってる」などと罵られ続けた。

「いつまで無料で仮設にいるんだ、早く出て行け。いいご身分だ」などと近隣の人たちからなじられたーー。

こうした「差別」とも言える状況が、ただでさえ苦しい状況に置かれている避難者の、さらなる心理的ストレスの一因になっていると言えるだろう。

複雑な避難者の思い

 
 
BuzzFeed Japan
 

辻内教授の調査では、そのほかにも様々なことを避難者に聞いている。

たとえば、ふるさとに「絶対に帰りたい」「帰りたい」と答えた人は計31%。

「帰りたくない」「絶対に帰りたくない」は計26%いるなど、月日が経ち、その思いは複雑化していることがわかる。

この問いをめぐっては、家族内でも考え方の違いが出ていることが明らかになった。

「帰還したい」回答者は22.6%だが、その配偶者は14.6%、子ども4.4%、祖父母は14.8%となっている。まさに、地域や家庭の「分断」のひとつの表れだ。

また、「ふるさとで失われたと感じるもの」(複数回答、上位10)については、以下のようなものがずらりと並ぶ。

  • 友人・知人の交友関係 65.9%
  • 近隣関係 61.3%
  • 家 57.7%
  • 家財 53.3%
  • 自然・風土 49.5%
  • 生活の場 48.8%
  • 生きがい 46.9%
  • 家族関係 46%
  • 先祖代々住んできた地域 43.5%
  • 土地 39.9%

 

多くの人たちが、多岐にわたる喪失を経験していることがわかるだろう。辻内教授はこう、言葉に力を込める。

「住民の人たちは、これまでの原発の開発をふくめて、経済を最優先させてきたさまざまな社会構造の犠牲となってきた。さらに、この事故によってふるさとを奪われ、いまも苦しめられ続けている。まさに『社会的虐待』であるとも言えます」

平和学では、こうした状況を「構造的暴力」と呼ぶ。辻内教授は、その背景を理解することが大切であると強調した。

東京五輪を前にして、原発事故を終わりにしようとする世の中の動きが急速に進んでいる。取り残された避難者たちはいま、絶壁に立たされているのです」

PTSDは心の問題と思われているため、精神的なケアに注目されることが多い。しかしそれは、応急措置にしかすぎません。根底にあるさまざまな社会的要因を理解し、解決する必要があるのです」