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いじめ、父のDV、非行……中退者の進学塾をつくった理由

 

生きていれば、誰もが何かしらの困難に立ち向かうことになる。心がくじけて、うずくまってしまうこともある。それは長い人生で考えると、ある種の必然かもしれない。大切なのは、そこからいかに立ち直り、困難を乗り越えていくかではないだろうか。

『暗闇でも走る』(安田祐輔/講談社)の著者の安田祐輔さんは、本書の冒頭で「僕の人生は、本当にうまくいかないことだらけだった」と述べている。発達障害によるいじめ、父のDV、非行、うつ病など、どうしようもない運命や叫びだしたくなるような生き辛さを抱えて、必死に闘ってきたそうだ。

 それでも今、安田さんの顔は明るい。様々な苦労と困難を乗り越えて、同じように苦しみを抱えた若者たちを救う活動をしている。社会の片隅に閉じこもってしまうような暗闇を必死で走り抜けた軌跡が、本書に記されていた。

■地獄のような幼少時代

 まずは安田さんの半生をご紹介したい。本書の前半では、軽度の発達障害を抱えた安田さんの目を覆いたくなるような子ども時代が描かれている。発達障害は最近になってようやく一般的に認知されるようになったが、それでも社会の理解が追いついているとは言えず、大半の人々がどうしようもない生き辛さを抱えている。

 安田さんが小学生の頃、1980年代の日本では、今以上にその障害について理解されておらず、周りの友達となじめない欠点ばかりが目立っていた。辛かった記憶の1つとして、集中すると周りの声が聞こえなくなってしまう安田さんは同級生の呼ぶ声を無視してしまい、それに腹を立てた友達が安田さんを無視するようになったエピソードを挙げている。その情景を簡単に思い浮かべることができるだけに、安田さんだけでなく多くの発達障害を抱える人々が、同じように辛い体験をしたのだろうと感じてしまう。

 そんなときこそ、子どもは親に助けを求めたくなる。しかし安田さんの家庭は崩壊していた。父親が浮気性で、家族に暴力をふるっていたのだ。繰り返される両親のケンカや父親の暴力。まるで地獄絵図だ。家でもクラスでも居場所がなかった安田さんは、小学生にして「普通の幸せがほしかった」と思い至ったそうだ。この歳でこんなことを思うなんて、どれだけ酷なことだろう。

 家に居場所がないことを知った安田さんは、全寮制の私立中学に入学する。しかしそこでも友達となじめず、2年生のときに退学。そして遂にグレてしまった。誰からも必要とされていないことを苦に、同じように非行に走る子どもたちと毎晩つるむようになってしまったのだ。

 安田さんは、おそらく人生で一番辛かった幼少期の記憶を淡々とつづっている。どこにも光が見えない状況が続くだけに、読む側も苦しくなってしまう。子どもの幸せは、親がすべて握っていると言って間違いない。それだけに子どもの不幸も親の行動1つで簡単に決まることを痛感する。本書で学べることは多い。

■暗闇に光が差す

 高校に進学した安田さんは、この暗闇から抜け出す方法として、大学進学を考えるようになった。学年でも底辺を漂う成績だったが、父親に頼みこんで予備校に入れてもらった。それでも、非行少年には勉強を続けることが難しく、何も進歩がないまま高校3年生の秋を迎えたとき、あの事件が起こる。9.11アメリカ同時多発テロだ。

 安田さんはいじめや家庭の境遇から、不条理なことに敏感になっていた。それと同じように、国家や戦争によって、いとも簡単に命を奪われている人々がいる。この事実を知ったとき、何とかしたいという思いが湧きあがった。そしてそれが自分自身の生きる意味に思えたそうだ。暗闇の中で目を覆うように生きた安田さんに、はじめて光が差した瞬間だった。

 それから必死に勉強するようになった。本当に、人が変わったかのように勉強した。そして2浪の末、ICU国際基督教大学)に入学することができた。一時期の偏差値は30だっただけに、その猛勉強ぶりは凄まじいものだったに違いない。

 学生の間はどうしても勉強をやりたくなくて、「なぜ勉強が必要なの?」「数学が私の人生でどう役に立つの?」という質問を周りの大人にしがちだ。しかし本書を読むと、その必要性が見えてくる。安田さん自身、勉強という努力を続けられた経験が自信につながったことをつづっている。さらに、この頃から「孤独や憎悪という感情から解放されたい」と思うようになったそうだ。これはあくまで本書を読んだ私の感想だが、これも努力を続けたことで自分自身と向き合うようになり、非行時代に抱えたズタズタの心が成長した結果ではないかと感じる。

 勉強は直接的に社会生活の役に立つものではないかもしれない。数学は自分の人生に大きく影響を与えないかもしれない。しかし、勉強をした経験は間違いなく役に立つ。その答えがこのエピソードに隠されている。

■安田さんだからこそ立ち上げられた活動

 ようやく軌道に乗り始めたように見える安田さんの人生だが、まだ困難が続くことになる。新興国での放浪体験や大企業に入社して患ったうつ病の経験だ。そのエピソードもお伝えしたいが、なによりも安田さんの今についてご紹介したい。

 安田さんは、もう一度勉強したい人のための個別指導塾「キズキ共有塾」などを経営するキズキグループの代表を務めている。様々な理由で学校に行けない若者やその親の叫びを受け止め、それを解決する方法を一緒に勉強しながら考える活動を立ち上げたのだ。これは壮絶な幼少期を体験し、その暗闇を勉強で抜け出した経験を持つ安田さんだからこそできたものだ。

 不登校や中退、引きこもりなど、様々な苦しみを抱えた人々に必要なのは、「物語」だ。私たちは挫折すると、まるで人生が終わったかのように感じてしまう。しかしそれを乗り越えたとき、その経験はその人にしか紡げない「物語」に変わる。その瞬間に、挫折は過去のものになる。

 苦しい経験があった。でも、だからこそ今がある。そう言えるよう、自分自身の人生を肯定できるようになれば、誰もが挫折や困難を恐れなくなるかもしれない。そんな活動がキズキにはある。

 人生には、楽しいときがあれば苦しいときもある。壁にぶつかる度、うずくまって泣きたくなるが、歯を食いしばって上を向きたい。そのすべてが過去になることを信じて、暗闇でも走り抜けられると信じて立ち上がりたい。本書は、そんな勇気をくれる。