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日大チアリーディング部のパワハラといじめ

Thinstockï¼Photo by mhodges

 

チアリーディング競技を行う日本大学応援リーダー部の女子部員に対して、部のOGでもある30代の女性監督がパワハラを働き、部の先輩や同期も嫌がらせを行っていたことが明らかになった。部員および部員の家族は、日大運動部を監督する保体審などにも相談したが、しかるべき対応が取られることはなく、部員は体調を崩し大学にも通えない状況だという。

 被害を受けた部員は8月9日、今年1月22日の出来事を発端とした一連の経緯をまとめた文書を各報道機関に発表。文書には、部の監督、先輩、同期らの、常識を逸脱した言動や行動が克明に記されていた。

 監督からは、事実ではないことで部員全員の前で注意され、誤解を解くことも許されず、怪我についても疑われる。部員同士のミーティングでも集中的に注意され、被害部員は過呼吸状態に陥るも「演技」だと中傷される。退部は許されない。……あまりにも理不尽で、もはや異常ではないか。

 スポーツで上を目指すには厳しい上下関係や規則が必要不可欠、という価値観は今も根強い。フェアプレーや安全のために「ルール」は必要だが、しかし理不尽にも耐えるような忍耐力を身につける必要性は、私は感じない。あまりに融通が利かない、妥協できないなどでチームプレーに支障を来たす部員がいれば困るだろうが、その場合であっても、理不尽に指示を飲み込ませるような指導方法はあってはならないだろう。

 今回の事件については、監督のパワハラのみならず、チームメイトによる“いじめ”のような構図も大きな問題だ。チームメイトの誰も「これはおかしい」と気付き、声を上げられなかったのだろうか。そこには監督という強権者の独裁だけではない、別の圧力もあったのではないか、とも考えられる。チアリーディングを経験した女性2名の話をそれぞれ聞いた。

年功序列ゆえ、同学年の結束は強かった

 そもそもチアリーディングとはどういうスポーツか。チアリーディングはスタンツと呼ばれる組体操、タンブリング、ジャンプ、ダンスなどを組み合わせた演技を行う団体競技である。大会では技の正確さや美しさを競い合うが、一方で他チームの演技も応援し盛り上げることでも知られている。

 大学時代にチアリーディング部所属だった30代女性・Cさんは、「私のいたチームでは監督による公開処刑はなかったけれど、先輩後輩の上下関係は厳しく、理不尽だと感じることは多々あり、日大の事件でフラッシュバックしました」と振り返る。

 高校や大学のチアリーディング部を直接指導するのは、その学校のOGだったり、今も社会人チームでチアを続けている人であることが多い。Cさんの大学のチア部は、顧問(大学教員)は運営にノータッチで、社会人チーム所属のOGがコーチをしていたという。

「コーチが教えに来るのは週1程度で、技術指導と、あとは練習方法についてアドバイスしたり。全体に対して注意することはあっても、特定の部員に対して執拗に注意する……いわゆる“公開処刑”することはなかったです」(Cさん)

 一方で、Cさんが所属した大学のチア部は上下関係が厳しく、同学年はみんな連帯責任。大学内の練習場には、頻繁にOGや社会人チームの人たちや協会本部の人間がやって来るが、1~2年生は特に粗相のないように緊張し、平身低頭で接していたという。何かひとつでも失礼なことがあると、練習後に先輩による長い説教タイムが待っているためだ。

「お説教タイムは、言葉遣い、準備が遅いとか不十分とか、先輩が片付けしているのに気づかないで代わらなかったなど……何かにつけて『こんなの社会に出たら普通だから』と言われたのはよく憶えているのですが、社会人になってからあんなふうに些細なことでいちいち怒鳴られたりはしないですね(苦笑)」(Cさん)

 そのような環境ゆえ、「誰かが独裁者になろうと思えば、なれたのではないか。だって、コーチや先輩、OGに理不尽な要求をされたり罵倒されたとしても、反論できる雰囲気はなかったですから」とCさんは振り返る。

 また、私立女子中高一貫校出身で高校・大学とチアリーディングに没頭し、社会人チアも経験したUさん(20代、現在は引退)は、OGには憧れや尊敬を抱いていたという。

「OGとの合同練習は、一緒にスタンツ(組体操)を組む機会があったり、アドバイスを貰えたり、楽しい面もありました。社会人チームの人たちはヒステリックに怒鳴る人もいなくて、高校生や大学生たちを温かく見守っている感じ」(Uさん)

 しかしCさんの大学のチームと同様、どこでも年功序列は明確で、先輩やOGの要求には唯々諾々と従っていたという。たとえば、社会人チームとの合同練習を学内の練習場でやれば、社会人チームが何時まで居残って練習を続けていても、学生チームの面々はじっと終わるまで待ち、片づけをする。

「だから当時、もし私がいた大学のチア部で監督が独裁者になろうとすればなれたと思うし、特定の部員を“公開処刑”したとしても誰も異議を唱えられなかったと思います。キャプテンの先輩は、おそらく同学年みんなの連帯責任だと言うし、そういうことが続けば、同学年からも『お前の行動でみんなが怒られているんだよ、ふざけるな』って文句言われるかもしれない。
規則の厳しい部で、独裁的な指導者が他の部員に『○○のやったこと、どう思う?』なんて聞かれたら『あり得ないです』って答えるしかない(苦笑)」(Uさん)

信頼関係や絆を求めるがあまり、他者を尊重できなかった

 彼

女たちの大学のチア部は、大会や学祭などで行う演技の構成や選曲編集も、事務的なあれこれ(大会のエントリー、講習会やサマーキャンプの申し込み、ユニフォームやTシャツやジャージのオーダー、お金や備品の管理など)もほぼ全部、部員たちでまかなっていた。練習以外でも部員同士、特に同学年同士が一緒にいる時間は長かった。

「上下関係が厳しい分、同学年同士の絆・つながりを大切にして、お互いのことをなるべく知っておこう、把握しておこう、という風潮で、何かにつけて“みんな”で話し合い、いわゆる学年ミーティングが開催されました」(Uさん)

 それぞれの考えや気持ちや事情を理解しようというよりも、決まった“正しさ”や“理想”に向かっていかにして足並みを揃えるか。空気を読むことが強く求められる場。日大の部員が発表した文書の中に、学年ミーティングについて<私に対して言いたいことを全員が言うためのミーティングでした>とあったが、Uさんがいたチームでもそういった場面は多々あったという。

「たとえ同学年全員が1人の部員に対して怒っていたとしても、全員でその子を槍玉にあげるのではなく誰かが代表して間に入ればいいのに、“これは学年全員の問題だから”と、“みんな”で1人に対して注意するのが慣例化していました。
言われた側にはあまりにもキツイ状況だけれど、“正しい”ことを言っている気満々の“みんな”は、そのアンフェアに気づけない。もちろん上辺だけじゃなく本当に心を入れ替え仲良くなること前提での話し合いなのですが……。
そもそも距離感が近すぎるというか、相手のことに踏み込み過ぎるきらいがあったと思います。チアはスタンツとか肌と肌が触れ合うスポーツだから信頼関係は大切だ、と高校時代も言われていたし、嫌いな相手とスタンツを組むのはしんどいから(笑)、信頼が大切なのは間違いありません。だけど相手の心に土足で踏み込むのはマズかったなと今はわかります。
そうは言っても、大学生って本人たちは“ほぼ大人”の気でいるけど実際はまだ子どもだから、腹を割って話すのと、土足で踏み込むのを履き違えてしまうんじゃないでしょうか。『同じ部の同学年同士にプライバシーも何もない』なんて言い出す子もいました」(Uさん)

あまりにつらいなら辞めればいい。しかし、同調圧力に押し潰され、辞めるに辞められなくなってしまう選手もいるという。日大の部員が出した文書には、<監督から部を辞めることは許されないと指導されていた/辞めることは許されなかった>とあり、怪我からの復帰が遅れていることに監督が『本当はもうできるんじゃないの?』と言ったなどの報告もあった。Cさんがいた大学の部も、入部時は先輩に『簡単には辞められないから』と言われたし、怪我をしていても“なるべくやる”のが望ましいとされていた。

「怪我に関して言えば、自分の身体のメンテナンスを優先して見学する部員より、怪我を押してでも練習する部員が評価されました。怪我をしていても松葉杖とかギプス固定とかどう考えてもできないとわかるものじゃなければ、休みづらかった。これもいわゆる“空気”だよね。医師から1週間は競技をせず様子を見るように言われているからと、空気を無視して見学すると、『医者なんてみんなそう言うんだよ!』『意地や覚悟はないの?』『甘えないで』と言われました」(Cさん)

 退部の意思を打ち明ける部員が出ると、大騒動になった。

「もう、みんなで止めます。『もったいないよ』『一緒にやりたいからやめないで』と涙ながらに訴える子もいれば、『ここで頑張れば、社会に出た時辛いことがあっても大丈夫って思えるよ』と励ます子、『甘ったれんな! 絶対辞めちゃダメだし、そんなんじゃ辞められないよ』と怒る子もいて、『辞めたっていいじゃん、個人の自由でしょ』なんて思っていても言えませんね。
部の方針や規則で『簡単には辞められない』と言われても、法律どころか学則ですらないし、その子はスポーツ推薦で入学したわけでもなかったので、拘束力はなかったはずです。でも、辞めてはいけないんです。
結局、その子の親が大学に連絡して退部になりました。大学生のチームが自分たちだけで解決するには限界がある。チアに限らず、大学の部やサークルを指導する立場の人や、周囲の大人は、学生に『あなたたちだけで解決できないこともある』と伝えるべきだと思います」(Cさん)

 二人とも、現役当時は『チアは信頼関係が大切なスポーツ』と信じ、実際ほぼ毎日チームメイトと顔合わせる中で、世界のほぼすべてが部活一色になっていたという。それは何もチアリーディングという競技だけに特有のことではなく、狭い世界にどっぷり浸かることのリスキーな側面だろう。