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専門家が考える いじめ解決のポイント

今号では、せたがやチャイルドラインが開催した公開講座「「いじめと不登校~経験者の立場から」の講演抄録を掲載する。講師は、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」副代表の須永祐慈さん。須永さんは小学生時代、いじめにより、不登校を経験した。かつての経験者として、現在は支援者として、いじめをどう見ているのか。

 本日は「いじめと不登校、経験者の立場から」というテーマについてお話するわけですが、まずかんたんに自己紹介したいと思います。

 私はいま、「ストップいじめ!ナビ」というNPO法人の副代表を務めています。「いじめについて検索した際、前向きな道しるべとなる情報をインターネットで得られるように」との思いからホームページを立ち上げ、子ども向け・親向けの情報を発信しています。

 最近では、いじめに関する調査研究に関わったり、弁護士が各学校に出向いて行なう「いじめ予防授業」などの取り組みをすすめています。

転校した先でいじめられた

 私は小学4年生のとき、いじめを受け、その後に不登校になりました。ある日、後ろの席の子が鉛筆で私をつついてきたんです。当時は東京から福島の学校に転校したばかり。友だちをつくれるかどうか不安だったので、かまってもらえるのがうれしかったんです。たまには、私からつつき返したりしてね。

 ところが、ほかの子からもちょっかいを出されるようなってくると、ちょっとずつイライラが募ってきて、授業中に「うるさい」と声を上げてしまったんです。

 騒ぎの中心に私がいたということで担任から怒られたわけですが、それを機に、「須永くんは“いじってよいキャラだ”」という空気がクラス全体にできあがりました。

 とはいえ、露骨ないじめがいきなり始まったわけじゃありません。机の横に下げている体操着の置き場所をちょっとずらされたり、筆箱のなかの鉛筆が1本だけなくなっていたりと、その程度なんです。「どこにあるかな」と探していると、遠くからクスクスと笑い声が聞こえてきたり。

 しだいに、ペアを組んでいる子が私を避けるようになり、私という存在がクラスのなかでやんわりと浮き始める。すると「つらい」「苦しい」「むかつく」「でもガマンしなくちゃ」など、いろんな思いが湧いてきます。

 一方で、「今日は何をされるのだろう」と、つねに神経を張っているため、極度の緊張状態から夜も寝られなくなり、食欲もなくなりました。

 さらに、私の場合、「他人と目を合わせられない」ということもありました。さきほどは「その程度」という表現をしましたが、当時を思い出そうとすると、今でも冷や汗をかくような気持ちになるし、ズンッと気が重くなります。

不登校の元気度 マイナス300

 いじめをめぐって、「つらかったら逃げていい」というメッセージを最近よく耳にします。

 前向きな思いを伝える点で非常に意味がある一方で、「逃げていい」と言われたところで、「自分の現状をどれだけ理解してくれているか」という葛藤を当事者に与えうるということも忘れてはならないと思います。

 私もそうでしたが、いじめを受けている最中というのは、袋小路のなかで、にっちもさっちもいかなくなっているわけです。

 そういう状況に陥っている子に向かって「逃げていい」と言うことは、大人が自身のポジションを守りながらアドバイスしているにすぎず、ときに冷たく、かえって子どもを追いつめることにもなりかねないわけです。

 ですから、「逃げていい」と言う場合には、「ここにおいで、ここに居場所があるよ」という情報も合わせて明示したうえで言わないといけないのでは、と思います。

 私が今、こうして自分の経験を語れるようになったのは、「私が私であるための時間」をきちんとすごせたからです。

 たとえば、元気満タンの状態を「100」とするならば、いじめを受け始めた段階でどんどん「0」に近づいていきます。そこから不登校になるころには、「マイナス300」ぐらいになっているわけです。

 その状態をまず「0」に戻すためには、「私は私でいい」「私は生きていていいんだ」と感じられる居場所がなくてはいけません。親や周囲の大人がそうした経験と実感を得られる環境をつくってくれたからこそ、けっして大げさでなく、私は今まで生きてこられたのではないかと思っています。

データから見るいじめの実状は

 つぎに、いじめを取り巻く現状や、いじめに関する調査研究にどのようなものがあるのか。それによって、どんなことがわかってきたのか。少し引いた視点から、いじめの現状と今後について考えたいと思います。

 2011年に、滋賀県大津市で起きたいじめ自殺をきっかけに、「いじめ防止対策推進法」が成立しました。同法のひとつのポイントとして、「予防」という観点を重視していることが挙げられます。

 これまで、いじめによる子どもの自殺が起こるたび、マスメディアが騒ぎ、教育委員会が謝罪会見を開き、遺族の方々はずっと苦しんでこられた。そんな負のサイクルを何十年と続けてきたわけです。その反省に立ち、「起きてからでは遅い」「小さないじめも見逃さずに対応すること」などを法律に盛り込んだわけです。

 大津市では、市長が変わったことを機に、先進的な事業に取り組んでいます。市長直轄の「いじめ対策推進室」という部署が新設されたほか、スマホアプリ「LINE」による相談業務を全国に先駆けて導入し、私も「LINE相談検証会議」のアドバイザーを務めています。

 さらに、市内の小中学生およそ5000人を対象にした「いじめアンケート」も行なっており、「ストップいじめ!ナビ」代表の荻上チキが質問項目の設定などに携わっています。

 アンケートで興味深いのは「いじめが多い時期」です。実施年度によって変化はあるものの、9月以降に多くのいじめが発生していることがわかります。

 また、いじめの内容についてですが、小中学生ともに最も多いのは「からかい・悪口・嫌なことを言われた」でした。

 続いて、小学生で多いのは「ぶつかる・蹴られる」ですが、中学生では「仲間はずれ・無視・陰口」と、学年によるちがいも見られました。

 こうしたいじめに関する調査によって得られたデータは、これからの対策を講じるうえでの重要なエビデンス(証拠)だと、私は考えています。データに裏付けられたエビデンスを一つひとつ積み上げ、可視化し、予防や対応策に組み込んでいくことの重要性を痛感しています。

クラスの環境 いじめの頻度

 そのほか、いじめに関する調査研究には、国ごとに比較したものもあります。

 それによると、日本の場合、無視や陰口といった「コミュニケーション操作系」と言われるいじめが多いんです。

 逆に、韓国・カナダ・オーストラリアでは、叩くなどの「暴力系」のいじめが多いという調査結果が出ています。いじめの実態が国ごとに異なるならば、なぜそのちがいが生じるのか、ということを考えていく必要があると思います。

 この点を掘り下げた論文はすでにいくつかあり、「体罰がひどいクラス、指導が厳しいクラス、連帯責任が多いクラスほどいじめが多い」「先生がよく話を聞いてくれるという教室ほどいじめが少ない」というデータが出ています。

 クラス内のストレス度が高ければ、いじめが起きやすい、要するに「クラスの環境といじめの頻度には因果関係がある」ということです。

“多様性の教育” 取り組みが必要

 『不機嫌な教室』を減らし、『ごきげんな教室』をどうやって増やしていくか、ここにいじめ解決のポイントがある。これこそ、私が本日の最後にお話したいことです。

 そのために何ができるか。すでに述べたように、「信頼できる実態調査と研究の積み重ね」のほか、「まわりの大人による相談しやすい環境づくりの促進」「発達障害やLGBTなど多様性の教育」などの取り組みが必要だと、私は考えています。