もう「子供だから…」
大津いじめ自殺事件、3,750万円を認める
2019年2月19日、滋賀県大津市で起きたいじめ自殺事件の民事裁判の判決がおりました。中学2年の2011年の10月に亡くなってから8年、加害者も成人を迎えるほどの歳月がすぎました。
私たちが2007年から、長年訴えてきた法制化が、この自殺事件をきっかけにすすみ「いじめ防止対策推進法」が生まれました。その意味でもこの大津いじめ自殺事件は、学校関係者だけでなく、社会的にも大きな影響を与えました。
今回の判決は、加害者側の元同級生と保護者に慰謝料など約3,850万円の損害賠償を求めていた訴訟で、大津地裁は「いじめが自殺の原因になった」とし約3,750万円の支払いを命じました。
判決が出たその日のうちにYahooには「大津いじめ訴訟判決を読み解く『被害者救済にかじをきる判断』」という産経ニュースが流れました。私も電話でのインタビューを受け、そのコメントが掲載されましたが、改めて、今回の判決に思うところを簡潔に述べておきたいと思います。
1.自殺の原因を「いじめ」としたところは画期的な判決であるということ
過去のいじめ事件の判決や第三者委員会の報告書の多くでは「自死の原因は、いじめ以外にもあった」と結論付けられ、「いじめが自殺の原因」とすることが避けられてきました。それ故に、今回の判決が今後のいじめ裁判に与える影響は大きいと言えます。
2.自殺の予見可能性があったことを認定した
裁判官は「そのような心理状態に至った者が自殺に及ぶことは一般に予見可能」としています。他の裁判では、「自殺を予見することはできなかった」と判断されることが多く、「予見可能」であるということを示したことは大変に重要です。
3.賠償金を遺族の主張のほぼ満額を認めた
今回は遺族の賠償請求額をほぼ認めていることも大切な点だと思います。過去の判例を見ると数十万円程度の判決もかなりあります。多くても数百万円程度しか認められていません。今回の判決は、今後の訴訟において必ず参考にされるものであり、一石を投じたものと言えます。
4.今後、学校は「いじめた側の賠償責任」についても児童生徒に教えるべき
いじめ事件が起きると、「子供だから逮捕されない」、「刑事罰はない」という言葉がささやかれます。しかし、いじめたことの責任は負わなければなりません。学校は、この判決を示し、子供たちに、「軽い気持ちでいじめをしても、その責任は重くのしかかってくるんだ」ということを教える必要があります。
判決後に父親が記者会見し、「いじめは人を自殺に追い込む恐ろしい行為なのだということを、何とか証明したい」「いじめ被害をなくすために闘うことは、私に託された息子の最後のメッセージだと思うようになった」と述べたことが報道されています。
子供たちが、この判決に触れることによって、いじめを止めること、また、いじめたくなる気持ちを抑えることができるように、教師は導いてあげて欲しいと思います。
5.その他
判決としては素晴らしいものだったと言えますが、保護者としては納得がいかない点もいくつか残ります。
加害者側についての判決はでたのですが、学校側についての判決はありませんでした。報道によると学校側とは2015年に1,300万円で和解しているために、分離されていたとのことです。学校側に対する裁判所の判断が「判決文」として残らなかったことに悔しさを感じています。今国会で審議されるはずの「いじめ防止対策推進法」の改正案の、教師の隠蔽等に関する懲戒規定が一刻も早く成立することを願ってやみません。
また、報道された判決の要旨を読むと、1人の子に対しての請求は棄却されています。いじめや暴力行為を行ったことは間違いないのになぜ棄却されるのか納得できません。全くの無関係で、いじめ行為が全く無かったのならそれでも良いのですが、いじめや暴力行為はあったのですから、その責任は追求されるべきだと思います。加えて、加害者側の保護者の責任についても言及すべきだと考えます。
裁判すること自体、御遺族にとっては大変なご負担だったことだろうと思います。勇気も時間も様々なものを犠牲にされて戦ってきたのだろうと推測されますが、この判決は、日本全体に大きな影響を与えたことは確かだと思います。
私たちもこの痛ましい事件を忘れることなく、いじめで苦しんでいる子供たちの力になっていきたいと思います。