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転職先で陰のボスから陰湿なイジメ

職場でのイジメにはどう対処すべきか

メディアでしばしば話題になるイジメは学校だけではなく、職場など大人の世界にも存在する。どうして人は「イジメ」を行うのだろう。転職先でイジメにあったという、ある30代後半の営業企画室長のケースで解説してみたい。

「イジメ」は
どうして起きるのか

 世界保健機関(WHO)などによる国際的な“イジメ”の定義は「自尊心を損なわせ弱体化させることを目的とした、執念深い、冷酷な、あるいは悪意のある企てによる、長期にわたって繰り返される不快な行為」です。“不快な行為”とは、何らかの立場における強い者から弱い者への身体的・精神的な“攻撃”を指し、最近では学校だけでなく、職場でも“イジメ”の問題が大きく取り上げられています。

 ヒトも含めてほとんどの生物には、自分の利益を侵害する他の個体に攻撃を加えて排除しようとするメカニズムが、生得的に備わっています。自分の地位を脅かす者や恋人に近づいてくる者を排除するための攻撃、パーソナルスペースなど自分の領域を守るための攻撃などが、これに該当します。

 社会心理学的に「イジメ」を考察するときには、“集団”に焦点をあてます。

 集団とは、単に街を歩く人々の群衆などとは違って、役割分担や共通の目標などがあり社会的相互作用が働いている人の集まりをいいます。集団は、所属する1人ひとりの考え方や行動を変えてしまうことがあり、ときに集団の凝集性(絆の強さ)がゆがんで高まることがあります。その代表的な例に「黒い羊効果」や「同調行動」があります。

 まず事例からご紹介します。

実権を握っていたのは
定年退職したばかりの“元室長”

◎事例 近藤さん(30代後半・男性)のケース

 近藤さんが、あるメーカーの営業企画室長として働き始めて3ヵ月がたちました。

 

 この会社は、業績不振で新卒採用をしない期間が長かったため、平均年齢が高くなっています。営業企画室も例外ではなく、事務職を除く15人ほどのメンバー全員が、近藤さんより10歳以上も年上でした。

 近藤さんは、大手金融機関からヘッドハンティングされて今のポジションにつきましたが、“室長”とは名ばかりで、実権は定年退職したばかりの“元室長”Aさんが握っていました。この会社では、定年退職になった社員を「シニアアドバイザー」として再雇用し、文字通りアドバイス役として元いた部署に残る制度があります。再雇用契約となるため平社員となり、給与も大幅減額となります。

 近藤さんは、金融機関出身ということもあり、常に数字を意識しています。転職してきてすぐに、自分や自分のチームが1日も早く会社の売り上げに貢献できるよう、熱心に業界について勉強し、Aさんには積極的にアドバイスを求めていました。しかし、近藤さんはやがて、自分が“空回り”しているような違和感を持ち始めます。

 部署のメンバーは、指示を仰ぐ際にはいまだにAさんのところへ行き、近藤さんへは事後報告ということがよくありました。Aさんも、大手取引先の情報やデータなど要となる部分を、なかなか近藤さんに引き継いでくれません。Aさんに取引先の情報などを共有させてほしいと何回か伝えていましたが、なんだかんだ理由をつけては、のらりくらりとかわされてきました。

 近藤さんは営業企画室を統括する統括部長と話す機会があったとき、思い切って現状を伝え相談したところ、統括部長から角が立たないようにAさんに話してみるということになりました。

 しかし数日後、近藤さんはAさんから個別に呼ばれ「私に直接言わないで、統括部長にあることないこと話したそうだが……」と言われてしまいます。状況を説明しようとAさんの顔を見ると、鬼のような形相で近藤さんをにらみつけていました。

 それをきっかけに、メンバーの近藤さんに対する態度が明らかに変わり、Aさんの実質的な権力を“盾”に堂々と近藤さんをいじめるようになりました。

異端を排除する
「黒い羊効果」

 Aさんがメンバーに何かを吹き込んだことは容易に分かりました。一番年下で社歴の短い近藤さんが、室長となって高い給与をもらっていることや、営業企画室のメンバーや会社をバカにしていたなどというストーリーが展開されていたようです。

 わざと近藤さん抜きで会議を設定して事後報告もしない、話しかけても聞こえないふりをする、「若い方は言っていることがよく分からない」などと言って笑われる、というようなつらい毎日が続きました。

 このような“イジメ”は、学校や職場といった集団の中でよく起こります。近藤さんのように集団の一員でありながら、リーダーとしてはおろか仲間としても見なされず、“のけ者”あるいは“厄介者”として扱われます。

 心理学では、「白い羊」の中に「黒い羊」がいると、“異端”として排除される「黒い羊効果」と呼ばれています。

 集団の中に近藤さんのような「黒い羊」がいることで、その他大勢の白い羊たちの一体感が強まり、仲間意識が高まるという状況にもなります。

 企画営業室でも、Aさんを中心として結束力が高まり、近藤さんをネタにして飲み会で盛り上がっていたようです。Aさんの存在感や権力も、かえって大きくなっていきました。

 Aさんをリーダーとした白い羊たちによる近藤さんへの“イジメ”は次第にエスカレートし、誰の目から見ても近藤さんは日に日に顔色が悪くなり弱っていきました。

 当初は、「これはさすがにやりすぎでは……」と、近藤さんに同情して話しかけてくる人も数名いました。近藤さんが話しかけられるのは、決まってAさんや他のメンバーの目が届かないときでしたが、次第にそういうこともなくなっていきました。

「集団圧力」が生み出す
「同調行動」とは

 背景にはどのようなメカニズムがあるのでしょうか――。

「黒い羊効果」で凝集性の高くなった集団内では「集団圧力」がさらに強くなり、人々は集団にとどまるため、そして自分が「黒い羊」にならないよう、集団のルールに合わせて自分の行動を変えるようになります。

これが「同調行動」です。このような「集団圧力」は、ときに普通の人を“悪人”に変えてしまうことがあります。おそらく、Aさんやメンバーたちはサイコパスなどではなく、いわゆる“普通の人”です。

 1940年代に「アッシュの線分組み合わせ課題」という心理実験が行われました。

 左側に1本の線分が、右側に複数の線分が書かれていて、被験者に「左側の線分と同じ長さの線分を右側の複数の線分から選択してください」という課題を与えます。右側の線分の中には、1本だけ左側の線分と同じ長さの線分がありますが、これは一目で分かるようになっています。

 しかし、自分以外の全員が違う長さの線分の1つを右側から選択すると、ほとんどの被験者に、その線分を選択するという「同調行動」が起こりました。このときの被験者には、間違っていると分かっていながら周りに合わせた人もいれば、自分の答えに自信が持てなくなった人もいたそうです。「集団への同調」は自分の判断や捉え方にも影響するということです。

「黒い羊」になってしまったら
どうすべきか

 集団の中で、自分が近藤さんのような「黒い羊」になってしまったら、どうしたら良いでしょうか――。

 対処法のポイントは――(1)背景とメカニズムを把握する、(2)「白い羊」を楽しませない、(3)特定の人に具体的な援助を求める――です。

(1)背景とメカニズムを把握する

“イジメ”が起こる背景には欲求不満があります。欲求不満は「いらいらする、怒りっぽい」という状態で、空腹など生理的欲求が満たされないときや、自分が望む地位を得られないなど社会的欲求が満たされないとき、要するに自分の思い通りにいっていないときに生じる不快感を指します。

 私たち人間が攻撃的になるのは、欲求不満が高まっているときに多いといわれています。「黒い羊」になったらできるだけ冷静に、そうなった背景を理解するようにしましょう。

 近藤さんの場合は、地位や給与に不満を抱いて嫉妬しているAさんやメンバーたちの心理的背景を理解して、対処法を落ち着いて考えることが重要になります。

「白い羊」を
楽しませてはならない

(2)「白い羊」を楽しませない


 だとしたら、「黒い羊」が感情的に反応すればするほど彼らを喜ばせることになるため、見かけ上だけでも淡々とした態度でいましょう。その上で、自分は彼らにとって脅威ではないことを態度で示し、彼らに対して敬意を持てる部分は言語化するなどして、自分は「公平・公正」な立場でいることを心がけます。 白い羊集団は、厄介者である「黒い羊」を制裁するのは“正義”だと思っていて、“イジメ”の自覚がないというケースがあります。そういうとき、白い羊集団は罪悪感を抱いていません。さらに、集団から逸脱している「黒い羊」に対する“道徳的攻撃行動”は、脳に快感を生じさせるともいわれています。

(3)特定の人に具体的な援助を求める

 自分が「黒い羊」になっているときは、周りの特定の人に援助を求めることも必要です。しかし、援助を求めるときに注意しなければならないことがあります。

 それは、明らかに援助を必要としている人がいながら、その場に多くの人がいても見殺しにされてしまう「傍観者効果」です。これが起こるのは、自分が助けなくても誰かが助けるという“責任の分散”、援助に失敗して恥をかきたくないという“集団抑制”などが原因です。

 これらを防ぐためにも、“特定の人”にどのような援助が必要であるのかを、具体的に伝えることが必要です。

 ◇

 Aさんのように集団から逸脱する者に対して制裁を加えることを好む人は一定数おり、彼らは「黒い羊」を見つけてつるし上げようとします。

 黒い羊効果によって結束力が高まった白い羊集団ですが、その団結は非常にもろく、結果的に集団の利得を下げる結果になるといわれています。自分が「黒い羊」のときも、「白い羊集団」にいるときも、自分を見失わないでいたいものです。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、人物像や状況の変更などを施しています。