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教諭いじめ問題 陥りやすい「恒常性錯覚」

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神戸市立小で教諭4人が同僚をいじめた問題は被害者のみならず、社会に大きな傷痕を残した。稚拙な加害行為や謝罪の言葉、さらには児童への配慮で不可解な方針を打ち出した教育委員会まで炎上した。なぜ、火に油を注ぐ対応を重ねたのか。

 私はたくさんの公立学校でスクールカウンセラーを務めてきましたが、「先生を信頼しているから、つらいことがあっても学校に行ける…」と漏らす生徒もいました。信頼できる教諭の存在が生徒の支えになっているのです。

 しかし、残念ながら、学校と教諭に対する信頼が揺らぐ出来事が神戸市でありました。市内の小学校で起きた同僚教諭に対する集団いじめです。この出来事だけでも十分ひどいことで、あってはならないことですが、その後の学校や教育委員会の対応にも疑問の声が上がりました。

◆構造的な忙しさ

 まず、加害者は被害者に対して謝罪することが何よりも必要なはずですが、加害教諭ら本人の謝罪の声が聞こえませんでした。神戸市教委が謝罪の言葉を公表していますが、被害者当人よりも家族に謝罪している加害教諭もおり、被害者へのおわびの気持ちが伝わらない印象はぬぐえません。

 では、なぜこのような事態に陥ってしまったのでしょうか。私がスクールカウンセラーを務めていて、まず気づいたのは教諭の構造的な忙しさです。2018年の経済協力開発機構OECD)国際教員指導環境調査(TALIS)によると、世界で最も勤務時間が長いのは日本の教職員で、小学校で1週間当たり54・4時間、中学校では56時間にも上りました。世界平均では38・3時間なので、ダントツに長いことが分かります。

 私は教育委員会で勤務していたこともありますが、教諭と同じく極めて多忙です。統計や国際比較のデータはありませんが、学校現場と同様に業務に忙殺されていることと思われます。このような忙しさの中では、「いつも通り」物事をこなすのが精いっぱいになってしまいます。今回のような問題が起こったとしても、真剣に事態と向き合って考える余裕もないことでしょう。

また、多忙は、考えると苦しくなる問題から目をそらして否認する「道具」にもなり得ます。「強迫性障害」という異常心理がありますが、これは気にしなくてもよいことを気にしてしまって、無意味な行動を繰り返したり本当に必要な行動が取れなくなったりする状態を言います。

 強迫性障害の全ての人に当てはまるわけではないですが、何かを気にして心を忙しくすることで「本当にヤバいこと」を考えないように逃げていることが知られています。実際、いじめの「首謀者」とされる女性教諭の謝罪の言葉に、「子供たちを精いっぱい愛してきたつもりですが…」というくだりがありました。被害者と向き合うのではなく、教諭としての自分の仕事に向き合おうとする姿勢がうかがえます。これでは、加害者としての自分から逃げているかのように感じられてしまいます。

 心理学では、このように「いつも通り」に逃げ込んで、問題と向き合わない現象を「恒常性錯覚」と呼びます。この錯覚は、防災などの危機管理を考える際のキーワードとしてよく使われます。危機的な状況でこの錯覚に陥ると、危機がさらに拡大するからです。全ての人とは言いませんが、加害教諭らも市教委も恒常性錯覚に陥っていたのかもしれません。

◆揺らぐ教育の信頼

 錯覚にはまる要因は、先に指摘した多忙さだけではありません。日本の学校には、100年以上も脈々と受け継がれた文化と伝統があります。また、義務教育は日本国憲法で定められた国民の三大義務であり、決してなくなりません。実は、このような特徴にも恒常性錯覚を起こしやすい背景があるといえるでしょう。

今回の教諭いじめは一種の集団暴行であり、学校教育は大きな危機を迎えたといっても過言ではありません。その中で恒常性錯覚に陥ったまま対応を誤ると、学校教育への信頼がますます揺らぐことでしょう。

 私自身、日本の学校教育に育ててもらった一人として、国民に広く信頼される学校教育であってほしいと思うばかりです。

【プロフィル】杉山崇

 すぎやま・たかし 神奈川大教授、同大心理相談センター所長、臨床心理士。昭和45年、山口県生まれ。学習院大大学院心理学専攻修了。近著に「心理学でわかる発達障害『グレーゾーン』の子の保育」(誠信書房