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「コロナ禍のいじめ未然防止」を主題とした論文

公立高校教諭時代に「ピア・サポート・トレーニング」などに取り組んできた山口権治・浜松市教育総合支援センター心理専門相談員から、「コロナ禍のいじめ未然防止」を主題とした論文が届いた。「過剰なほど正常・健康・中心志向の高い学級」の危険性などを指摘している。その全文は次の通り。

1 はじめに

 新型コロナウィルスの感染拡大防止を理由に2月の末から全国一斉の臨時休校が始まりました。その後も感染の影響が収まらず5月の緊急事態宣言の延長を受け、休校も延長されました。
 その間、感染予防措置を講じて卒業式や入学式、部分登校を行ってきましたが、全校登校が始まったのは6月1日からでした。やっと登校できたかと思えばすぐに夏休み、そして短い夏休みが終わり2学期が始まりました。
 ステイホームを強いられていた子どもたちの中には、ゲーム、マンガに夢中になり不規則な生活を送っていたり、昼夜逆転の生活をしていた子どもいると思います。
 3密(密閉・密接・密集)の回避で思うように友達と話ができず、人間関係に不安を感じている子どもいます。浜松市発達相談支援センターによると、幼保、小学校低学年で登園や登校を嫌がる子が増えているそうです。
 また、長引くコロナ禍で保護者の中には、会社の業績が下がり、給与や雇用の不安を抱えたり、テレワークや時差出勤に馴染めずストレスを感じている人も多いのではないでしょうか。
 授業日数の確保や遅れてしまった学習を取り戻すことに不安を感じている先生方もいると思います。こうしたストレスフルな状況では、子どもたちのメンタルヘルスは悪化します。
 そうなると怒りっぽくなり、誰かを責めたり、いじめが起こるリスクが高まります。いじめを起こさせないという未然防止の取り組みが重要となります。

2 現在のいじめの傾向

 いじめは大きく分けて2種類あると考えられます。「暴力系いじめ」と「コミュニケーション不全系いじめ」です。前者は殴る、蹴る、性暴力、恐喝といった、肉体的暴力を伴ったものです。後者はからかい、悪口、嫌なことを言われる、仲間外れ、無視、陰口というように、主に人間関係に起因するものです。
 大津のいじめアンケート(平成30年度調査)では、後者のいじめが大半でした。そこで後者に焦点を当てて考えてみます。
 いじめの加害者として最も多く挙げられるのは、同じクラスの児童生徒です。いじめる理由は「相手に悪いところがあるから」「悪ふざけだと思っているから」「暴力をふるうわけではないし、たいしたことないと思ったから」「いじめなければ自分がいじめられるから」「友達に誘われたから」「面白いから」「気分がスカッとするから」などです[1]。
 イライラや怒りの原因を責任転嫁する傾向や、クラス全体にいじめを誘発する雰囲気が強いと、いじめは起きやすくなります。
 また、いじめの被害者には、周囲に合わせることが苦手だったり、友達が少なかったりと、周囲から孤立している子どもが多い傾向が見られます[2]。そして「いじめを止めてほしい人は」という問いには「友達」と答える児童生徒が圧倒的に多いという結果が出ています[3]。
 さらに「教室の雰囲気の良いほどいじめが少ない」という点や[4]「担任の先生が話をよく聞いてくれるといじめは少なくなる」[5]という調査結果は、われわれ教員が理解しておかなければならない重要な点です。

3 いじめ問題介入の5つ視点

 いじめ問題を解決するには、教師が児童生徒の立場に立って理解と支援をしなければなりません。そうすれば、いじめられている児童生徒は心を開いてつらい体験を語ることができますし、いじめの実態も解明することができます。
 いじめ問題介入のための5つの視点[6]の第一は、いじめは「心的外傷(PTSD)を引き起こす事態であり、子どもによる虐待である」との認識が必要だということです[7]。いじめを受けた児童生徒は心をひどく傷つけられ、そのダメージは将来にわたって負の影響を及ぼします。この点に理解がなければ、いじめ問題の解決への強い動機づけは生まれないでしょう。
 第二に、攻撃誘発性(Vulnerability)についても考える必要があります。これは被害者となる児童生徒の「いじめられやすさ」のことです[8]。
 例えば身体に障害がある児童生徒、帰国子女や転校生、協調性に欠けていたり、服装がだらしなかったり、とげとげしい言葉遣いをする子どもなど、いじめられやすさを持つ児童生徒への理解と個別支援が必要になります。また、近年はセクシャルマイノリティー(LGBT)の児童生徒に対するいじめも顕在化してきました[9]。
 これらは「集団の価値基準」からの逸脱がいじめの原因となりうることを示しています。例えば過剰なほど正常・健康・中心志向の高い学級や、異質なものを排除しようとする雰囲気が支配する集団では、「違和感をもたらす異物」は擯斥の対象になりやすいと考えられます。
 私自身の学級づくりを振り返っても、反省すべき点は多々あります。年間学級目標として「欠席者ゼロ」と掲げていたことがありますが、最初に欠席した生徒はさぞつらかっただろうと思います。
 一方、優等生などの目立つ児童生徒もいじめのターゲットになる場合があります。要因はさまざまですが、いじめの被害者となった児童生徒に対して、教師は早めに良好な人間関係を築き、相談しやすい環境をつくることが肝要です。
 第三に、集団内に生じる「ピア・プレッシャー」(同調圧力)への配慮と対応が必要です。思春期の仲間内で生じる同調圧力は極めて強力で、大人から見れば異様に思えるほどです。
 いじめる理由として「いじめなければ自分がいじめられるから」「友達に誘われたから」等が挙げられるのも、同調圧力によっていじめをせざるを得ない環境ができ上がっていることを示しています。こうした環境を取り払い、誰もが自由に自己表現できる環境をつくることが大切です。
 第四に、教師は論理性のある指導観を持つ必要があります。前述のいじめる理由の第一位は「相手に悪いところがあるから」ですが、短所のない人は一人もいません。
 ですから、短所を理由にいじめてよいわけがありません。いじめがいかに不当なことかを、教師は日頃から児童生徒に伝えなければなりません。
 第五に、児童生徒に対立解消のスキルを身に付けさせる必要があります。価値観の多様な現代、対人関係上のもめごと(対立)が起こるのは自然なことです。
 必要なのは、もめごとを起こさないように押さえ込むことではなく、もめごとが起こった時に児童生徒の発言を丁寧に聞き、当事者同士の対話を通じて解決していく力を養うように指導するという教師の姿勢です。
 児童生徒がもめごとから何かを学ぶことで、一人ひとりが成長し、集団としても成長していくなら、いじめは減少することになると考えられます。

4 まとめ

 学校でのもめごとの多くは、教師のいないところで起きています。もめごとはともすればいじめに発展してしまいます。こうなると、解決は容易ではありません。いじめに発展する前の、もめごとの段階で解決することが重要です。
 もめごとが起きている時、その周囲には他の児童生徒がいるはずです。彼らがもめごとに気づいて、適切に介入し、仲裁者となり、対話でもめごとを解決することができれば、いじめの未然防止につながります。
 児童生徒にそうした技術を身につけさせ、児童生徒同士が互いに助け合い、支え合いながら親和的な関係を構築するように促す教育活動は「集団を育てる手法」といえます。
 仲裁者が対話を通して対立(もめごと)を解決する手法を「メディエーション(調停)」[10]といいます。メディエーター(仲裁者)が当事者双方から話を聞く中で、事実や対立する両者それぞれの気持ちを受け止めつつ、当事者の願い(どうなりたいか)を理解して、共通点を見いだし、合意を形成するものです。
 その技術を身につけるには、ロールプレイを通じたトレーニングが有効です。もめごとの場面を設定し、当事者役2名とメディエーター役1~2名によるメディエーションを実施するというものです。こうした指導を行うには、まず教員自身が率先して学び、児童生徒にモデルを見せる必要があります。
 一方、集団に視点を置きすぎると、少数派(弱者)に対する視点が抜け落ちてしまいがちです。「担任の先生が話をよく聞いてくれるクラスはいじめが少ない」といわれるように、「個に寄り添い、個を守る」という視点が重要になるのです。多くの児童生徒にとって有効であったとしても、クラスの中で1人でも傷つく児童生徒が生じるようなやり方は避けるべきです。
 さらに中井[11]は、「教師の何気ない一言、かすかなうなずき、いや黙って聞き流すことさえも加害者には千万の味方を得た思いである」と述べ、教師の言動がいじめを助長したり許容したりする存在になり、いじめ防止には教師の態度が大きな影響を与えることを指摘しています。
教師は児童生徒のロールモデルであることを自覚しなければなりません。教師自身の人格の向上が求められるのです。