いじめニュース速報@イジ速

いじめ事件 ・イジメ ニュースを発信中!スマホいじめが増加!子供達をいじめから守ろう!

神戸教員カレーいじめの実態 報告書からわかった、その構造

f:id:ryoushinn11:20201203171700p:plain

いじめ不登校、保護者との軋轢、長時間労働、新型コロナの影響……。教育現場ではたらく人のストレスとプレッシャーは年々、増すばかり。こうした困難を打開するヒントを与えてくれるのは、著書『いい教師の条件』を上梓した諸富祥彦氏だ。昨年、世間を騒がせた神戸・東須磨小学校の「教員いじめ・暴行事件」。なぜこのような凄惨な事件が起きたのか? 現場に精通した諸富氏が鋭く分析する。

きわ立つ加害教員の残酷ぶり

神戸市立東須磨小学校で、新卒3年目25歳(当時)の男性教員が同僚の教員4人から、いじめや暴行を受けていた事件がありました。

2019年10月に発覚したこの事件では、被害に遭った教員が、激辛カレーを無理やり食べさせられ、羽交い絞めにされ、目にこすりつけられる動画が繰り返しテレビで流されました。その衝撃的な場面とともに、東須磨小の教員間のいじめ事件を記憶している方は多いのではないでしょうか。

事件の発覚後、弁護士による外部の調査委員会が設置され、2020年2月には、加害教員4人による125項目にも及ぶハラスメント行為が列挙された報告書が公表されました(事件発覚は2019年でしたが、加害行為は被害教員が新卒で配属された2017年から始まっていました)。

被害者は激辛カレーを強要された男性教員だけでなく、20歳代の男性教員1人と女性教員2人も含め、計4人の被害が調査対象になっていました。125項目のハラスメント行為というのは、加害者4人が行い、被害者4人が受けたものの総計です。

加害者4人の教員のうち、加害行為が最もひどかったのは、30歳代の男性教員Aです。78項目ものいじめ行為に加担していました。

以下は、A教員が被害教員に行った加害行為です(報告書より引用)。

〈車による送迎を求め、被害教員が遅れたときに「はよせいやハゲ、ボケ」と言ったり、車の部品を叩いたりした〉

〈バーベキューをしたときに、被害教員に対し、激辛のソースを飲ませた〉

〈運動会の準備中に、金槌で釘を打っている時に、わざと被害教員の指を金槌で打った〉

〈被害教員が所有する車両の屋根の上に乗り、加えて、同車両を蹴った〉

 

〈模造紙の芯で振り回し、被害教員の尻を3回程度、打ち付けた。その結果、あざ、みみず腫れができた〉

〈養生テープで拘束して放置した〉

〈熱湯入りのやかんを被害教員の顔に近づけた〉

いずれも啞然とするほど悪質で、許しがたい行為です。加害者も被害者も複数名います。

「特殊な事例」で片づけるな

しかし、この事件には、「ひとりの異常な教師が犯した異常な事例」で片づけてしまうことができない側面があります。

この事件には、多くの学校の教員集団の中で生じやすい「歪み」が増幅された形で現れています。つまりこの事件は、決して「特殊な事例」で片づけていいものではなく、「教員集団の人間関係」でどんなことが生じやすいかを考える上で極めて重要な、「ある種の普遍性をもつ事件」であると考えられるのです。

重要なのは、この行為が「教員集団の人間関係の歪み」の中で生まれたことです。

以下に被害者、加害者を整理して記します(アルファベットによる呼称は報告書に準じています)。

【被害者】
・被害教員 20代男性(激辛カレーを強要された)
・X 20代男性
・Y 20代女性
・Z 20代女性

【加害者】
・A 30代男性
・B 30代男性
・C 30代男性
・D 40代女性

調査委員会は「加害教員らはいずれも、被害教員よりも年長者かつ先輩であり、教員歴も長く、指導的立場」にあり、「優越的な関係を背景とした言動」であるとし、ハラスメントとして認定しました。加害行為125項目には、いじめからセクハラ、犯罪行為までも含まれ、それらを含めて広義で「ハラスメント」とみなされたのです。

 

東須磨小の教員数は、「30人強」(神戸新聞 2019年10月4日)なので、職員室は学級集団と同じくらいの人数です。そのうち4人が加害者で4人が被害者です。職員室の中でいじめる側といじめられる側が4人グループで存在しています。これは学級集団で生じる子ども同士のいじめとまさに同形です。

さらに悪質なことに、「東須磨小「悪魔の職員室」神戸イジメ教師が後輩男女教諭に性行為を強要した」(「週刊文春」2019年10月24日号)という報道もありました。まさかと目を疑う見出しですが、ハラスメント行為が列挙された報告書には、伏せ字ばかりですが、強要した行為を思わせるくだりも記されていました。

人気者で評判だった加害教員

みなさんは意外に思うかもしれませんが、加害教員たちは、事件前は保護者から評価の高い先生でした。

加害者とされる男性教諭について「担任ではなかったが、頼りがいがあり、人気者という評判。信じられない」(神戸新聞 2019年10月5日)

加害教員について次のように言う保護者もいた。「本当に熱心で、親身になってくれる先生だったんです。問題を抱えた子の家に何回も足を運んだり、イジメやセクハラをしていたなんて信じられません」(「週刊文春」2019年10月31日号)

(加害者の40代女性教員について)「子ども一人一人の動きが見えていて、授業で指名する順番などよく考えられていた」と指導力の高さは感じていた。(神戸新聞 2020年2月21日)

加害教員についていずれも「頼りがいがあり人気者」「本当に親身で、熱心になってくれる」などと語られていて、指導力の高さをうかがわせるエピソードです。いわゆる「力があるとみなされる先生」であった様子が浮かんできます。

調査報告書には「男性若手教員のうち、本小学校で6年生の担任を長年続けてきたA教員が、構図的に職員室内で力を持っていたのではないかという見方をすることができる」と記されています(6年生の担任は、比較的やるべきことが多く、一定の実力以上の教員が任されることが多いのは確かです)。

 

逆に言うと、「力があると周囲からみなされている先生」だからこそ、職員室での発言力が高まっていったのでしょう。

ここで言う「力があると周囲からみなされている教師」とは、教師としての「役割」をこなすのに長けていた、という意味です。

子どもに熱心に指導できること、教科をうまく教えられること、保護者の要望にうまく応えられること……そんな教師の「役割」をうまくこなせていたからこそ、保護者からの信頼が厚く、同僚教師からも一目置かれ、管理職も注意しづらい存在になっていったのでしょう。

「子どものいじめ」と同じ構造

特に私が注目するのは、加害者グループ中で唯一の女性で最年長(40代)だったD教員です。

40代の女性教員で、学校で最も実質的な影響力を発揮していたDが背景にいて、30代の男性教員3人に、20代の教員4人をいじめさせていたのです。D教員は2017年に当時の校長が呼び寄せたとされています。校長のお気に入りだったのでしょう。

私は、加害者グループ4人の中でもDが実質的に果たした部分が大きいと考えています。

Dについてはこんな報道があります。

「仕事はテキパキとできるのですが、その分、要領がよくない同僚を小バカにする面は、あったかもしれません。児童に対してもえこひいきが激しく、暴言を吐かれたり、胸倉を摑まれたりした子がいたようです」(「週刊文春」2019年10月17日号)。

加害者の30代男性教員3人が職員室の中で若手教員への力をもっていったのも、校長のお気に入りで仕事がテキパキとできるDという「後ろ盾」があってのことだったのでしょう。

事件発覚時の東須磨小の校長は、2018年まで教頭だったそうです。同じ職員室にいた教頭が、何が起きていたのか気づかなかったとは考えづらいです。学級のいじめと同じ「同調圧力」が働いていて、管理職の感覚もマヒしてしまっていたのです。

管理職が事なかれ主義者だと、職員室内の別の誰かが実質的なボスとなり、幅を利かせるようになりがちです。これも、事なかれ主義の学級担任のクラスで、「力があるとみなされている、クラスの中心的な位置にいる子ども」が、いじめ集団のリーダーになりがちなのと同じです。

子どもたちの間にはびこる「カースト」が職員室でも存在していたのです。

 

現に調査報告書には、次のように記されています。

〈被害教員は、A教員からのからかいに反応しないと、「はあ? おもんな、しょうもな」と小声で言われて冷たくされ、A教員に嫌われると本小学校で仕事ができなくなる、という恐怖があったという〉

神戸市東須磨小の教員間いじめ・暴行事件は、子ども同士の「いじめ」と同じ構造の上に成り立っていたといえます。