中学でのいじめ 被害男性が今、伝えたい思い
暴言、暴力、恐喝、エアガンで撃たれ…
いじめを受けていた時期の2012年9月に中学1年だった佐藤さんが担任に提出した作文(コピー)。「いじめをなくしたい」のタイトルで被害をほのめかす内容だったが担任は気付かなかった
同級生が撃ち続けたエアガンの弾は、やがて痛みすら感じなくなり、体をすり抜けていく感覚だった――。中学時代にいじめを受けた男性が、法廷で語った耐えがたい日々。男性は、重度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみながら、前を向くため、顔も名前も公表して裁判を続けている。「いじめで苦しむ子が少しでも減るような世の中になれば」。そう言って18日に福岡高裁の法廷で男性が紡ぎ出した言葉を詳報する。
男性は、佐賀県鳥栖市の専門学校生、佐藤和威(かずい)さん(21)。
同市の市立中1年だった2012年に同級生から繰り返し暴行や恐喝などのいじめを受けてPTSDになったとして、同級生8人と市などに計約1億2800万円の損害賠償を求めた訴訟を家族とともに闘っている。18日は控訴審の第1回口頭弁論だった。
「この度は、陳述の機会を与えていただき、ありがとうございます」。
佐藤さんの意見陳述が始まった。
「中学入学直後から、私へのいじめは始まりました。
暴言・暴力、金銭の恐喝、エアガンで撃たれるなど、何もない日はありませんでした」。
いじめは12年4月から約7カ月間続いたと訴えている。
「『学校の先生に助けを求めればよかったのでは?』とも言われますが、担任の先生は私が暴力を受けている時も、見て見ぬふりをしていました。
そんな先生に相談することはできませんでした。
いじめに苦しむ人は、その場をしのぐことで精いっぱいで、どこに助けを求めてよいのか分かりません」。
さらに「『親に相談したり、学校に行かなければよかったのでは?』と言われます。
当時母は病気で入院しており、私は医者から『再発する可能性があるから、心配させないように』と言われていました。
加害者から『ばれたら、母や妹に危害を加える』と脅され、親に相談することも逃げることもできませんでした」と、誰にも頼れない状況だったことを明かした。
執拗(しつよう)ないじめは続いた。
「周りを取り囲まれ、背後から首を絞められたり、殴られたり、蹴られたりしました。カッターの刃を突き付けられ、目の前でのこぎりを振り回され、恐怖で体が硬直し、頭の中が真っ白になりました。
やがて暴行を受けても痛みを感じなくなり、私に向かって撃たれたエアガンの弾が、体をすり抜けていくような感覚になりました。
暴力を受けすぎて、もう振り払う手も、逃げる足も、助けを呼ぶ口もなくなっていました。どんどん私が壊され、私が私でなくなっていったのだと思います」
いじめは別の同級生が学校側に訴え、12年10月に発覚した。
「発覚直後から今日まで、私は何度も自殺未遂を繰り返したそうです。
人ごとのような言い方ですが、決して『死のう』と決意して行ったのではないのです。私の中には別の私がいるみたいです。
今話をしている私の他に、いじめられていた当時の私や、自分が誰かも分からない人がいるようです。
ある時何の前触れもなく、いきなりいじめられていた当時の状況が目の前に現れます。そして私が私でなくなるのです。
そうなると、自分をコントロールすることができなくなってしまいます。
自殺未遂はそのような状況で起こったのだと思います」
今なお続くPTSDの症状も明かした。
「今も火や刃物が怖く使うことができません。
水が怖く、プールやお風呂に入ることもできません。
私と年の近い人や学生服の集団とすれ違うと、恐怖で体が硬直します。
加害者や当時の同級生に会うかと思うと、一人で電車に乗ることも店に入ることもできません。
いくら『大丈夫だ』と言い聞かせても、息苦しくなり体が反応してしまうのです。
知らないうちに記憶が飛んでしまい、夢か現実か、自分がどこにいるかも分からなくなってしまうのです」