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弁護士が考える“いじめと法律

ドラマでも注目を集めた「スクールロイヤー」。「法律のプロ」であるスクールロイヤーが現場で力を発揮するためには、「教育のプロ」である現場の教員とのタッグが欠かせない。

いじめがなくならない背景には、何があるのだろう。教育現場に足りないもの、そして、それを補うためにスクールロイヤーができることについて、第一人者の鬼澤秀昌弁護士に話を聞いた。

 

スクールロイヤーになるには、法律、教育、福祉の知見が必要

──2018年のNHKのドラマで、神木隆之介さんがスクールロイヤーを演じる『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』で、スクールロイヤーという制度が脚光を浴びました。弁護士なら誰でもスクールロイヤーになれるのでしょうか。必要な資質について、教えてください。

鬼澤 弁護士である以上、法律的な知識は当然必要ですが、学校に関わる弁護士として、さらに教育的・福祉的な知見が必要です。

 教育や福祉の現場には教員や介護士ソーシャルワーカーなど、専門家が多くいます。弁護士がそうした教育専門家のレベルに到達するのは当然難しいですが、たとえば教育分野で言えば、学校にはどんな組織がありどんな役割なのかや、小学校の低学年と高学年の発達に応じた指導方法の違いについてなどは、知っておくべきです。

 さらに欲を言えば、より良い指導方法なども先生たちからお聞きして学んでおきたいところです。トラブルが生じた時、よりその学校にあったアドバイスをすることができます。

各施設で働く人たちの職種や役割を正確に把握し、つないでいく

──マンガ『息子がいじめの加害者に?』でも、加害者側の保護者が早期に小児専門の精神科医や地域の子ども子育て応援センターなどを活用し、いじめをしてしまった我が子を客観的に見ることがいかに大事か、ということが描かれていました。どんな専門家がいて、どんな支援をしてもらえるのかは、知らない人が多いのではないかと思います。

鬼澤 そうですね。ですから、スクールロイヤーは、そうした学校以外の子どもが関わる機関(社会資源)も知っておく必要があると思います。福祉的な支援が必要な場合には、特に各機関との連携が必要なことが多いので、児童相談所、各地域子ども子育て応援センターなどの施設と、ソーシャルワーカー、カウンセラー、特別支援コーディネーターなど、各施設で働く人たちの職種や役割を正確に把握し、どういう場合にどこにつなげばいいのかは最低限の知識として持っておくと、いざ問題が起きた時に、スムーズな対応ができます。

──聞いているだけでめまいがします。なぜそんな大変なお仕事に関わろうと思われたのですか。

鬼澤 大学4年生の時に、事業で社会課題の解決を目指す社会起業家を支援するSVP東京という団体でインターンをし、また、法科大学院時代に特定非営利活動法人Teach For Japanの存在を知ったのがきっかけです。もともと教育に関わりたいと思っていたわけではなかったのですが、「教室から世界を変える」を理念に掲げ、教育環境の格差解消に取り組む人たちの活動を間近に見て教育分野に強い関心を持つようになりました。その後、司法修習中に教員の人たちとの勉強会等も開催していくうちに、「子どもを支える人たちの支えになりたい」と思うようになりました。

子どもを支える人にも「支え」が必要

──「子どもを支える人たちの支え」ですか。教育現場に関わる弁護士は、一般にイメージする弁護士とはだいぶ違うのでしょうか。

鬼澤 教育現場は、白黒つけられない部分が多いんです。たとえば、わが子への対応に不満を感じている保護者に「民法第●条の第●にこう書かれているので却下します」と言い切ったら、保護者は心を閉ざしてしまいますよね。

「法律上はこうだけれど、お子さんと相手のお子さんの最善のために、こういう方法はどうでしょうか」と提案できる知識と経験力が求められるのは、難しいところだと思います。

 実際に講演会でも、「これって裁判上証拠として扱われますか」という類の相談をよく受けるんですが、弁護士に対して「白黒ハッキリつける怖い人」みたいなイメージを持っている方はまだ多いと思います。もっと日常的に現場の先生方とディスカッションを重ね、「こんなことも相談していいんだ」と、信頼してもらえる存在になることが、まずは目標としているところです。

「スクールロイヤーを導入すれば解決」というわけではない

──2021年度からはスクールロイヤーが全都道府県の教育委員会などに配置されることになっていますが、まだそれほど認知率が高まっていないように感じます。スクールロイヤーの課題はどこにあると思われますか。

鬼澤 スクールロイヤーは、導入したからそれでいいというわけにはいきません。現場の先生方がうまく活用できるような態勢を維持するとともに、どのようなことを相談できるのか認知を広げていかなければいけないと思います。

 他方、担い手の側の視点で言えば、スクールロイヤーが得るべき知識は、今まで暗黙知となっていた部分も多いので、知識やその獲得の仕方を明確化する必要があります。

 このように、何をやれば子どもの権利が実現できるのか、そのためにはどういう知識が必要で、どういうアドバイスをしなければいけないのかということを、第三者の視点できちんと明確化し、浸透させていくことで、何をスクールロイヤーに相談できるのか、という点も明確になっていくという効果もあると思います。このように、弁護士及び学校における双方の取り組みが、今後スクールロイヤー制度を広げていくためには重要だと思っています。

スクールロイヤーの制度を広げる活動と「教育判例勉強会」

──スクールロイヤーの制度を広げる活動にも注力しておられるとお聞きしました。

鬼澤 はい。いまは現場経験のある私たちが中心となって、スクールロイヤー への現場へのアドバイスの在り方を明文化・体系化して発信しています。これが整ったら、次はほかの関係機関との連携を増やすことを考えています。

 文部科学省では、学校や教育委員会が弁護士に相談するための制度構築のマニュアルや、具体的な相談の事例集も作成しました(教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き)。これは、スクールロイヤーという名称であるか否かに関わらず、学校現場や、学校に関わる弁護士にも参考になる手引き書になっています。

 個人的に現場の教員たちと一緒にやっている「教育判例勉強会」も、非常に充実した内容です。これまでの判例集だけでは、教員と弁護士がそれぞれ学び合う、ということをどう実現すれば良いのかがなかなか分かりません。そこで、実際に勉強会で検討したものを、来年あたり書籍としてまとめる予定で進めています。具体的な裁判例や第三者委員会の報告書をあげながら、現場の先生たちの意見と裁判所の判断を紹介するという、事例と対話集になっています。

 現場の先生方はもちろん、弁護士の方々も研修で利用したり、勉強会等でも活用していただきたいです。

学校風土調査で「いじめ」を減らしたい

──スクールロイヤー制度が広まることで、いじめはなくなると思いますか。

鬼澤 それは、「世の中でなぜ人権侵害が発生するのでしょうか」というのと同じくらい難しい質問ですね……。ただ、少なくとも弁護士が入ると先生たちは法的観点を踏まえた対応ができるようになります。いじめ分野については国内外で膨大な研究データがあるので、そうした研究を適切に法律や教育現場に反映できるよう弁護士が介入していくというのは、解決の糸口になると思います。

──いじめ防止推進に足りないのは、何だと思いますか。

鬼澤 エビデンスです。「受けた側が心身の苦痛を感じたらいじめ」と定義が広がったいまは、好きじゃない異性から好きだと告白されることも「いじめ」といわれかねません。

日本はまだ、いじめが起こってから「いじめがあったかどうか」という調査の仕方をしていますが、世界的にはいじめが起こりうる土壌があるかどうかを調べる学校風土調査が主流になっています。

 何が課題で、何がいじめ予防のために必要なのかというのは学校風土調査を進めることで見えてくると思っているので、個人的には制度化を含め、ぜひ全国レベルに広げていくべきだと思っています。

 教育機会確保法など、教育現場に関わる法律もできてきましたが、法律は行動を縛るためのものではありません。法律の意義は、よりよい環境を実現するためにあります。現場の先生たちに法律の知識が備わり、その趣旨が浸透すれば、いじめの少ないよりよい環境は、きっと目指せると信じています。