(24)北海道 凍死事件 背景にある いじめ問題 の詳細! (1)~(25)まで
事実とはあまりにもかけ離れた「他殺説」や「陰謀説」
ネット上では現在、爽彩さんと別の少女の動画も拡散されている。またネット上で後を絶たないのが、事実とはあまりにもかけ離れた「他殺説」や「陰謀説」を唱える書き込みだ。
5月21日に爽彩さんの事件について報じたYouTubeライブ「文春オンラインTV」でも、コメント欄には「爽彩さんの死は絶対に自殺ではなく、他殺です。皆隠蔽しています」といった趣旨の書き込みが多く見られた。
また、実際に遺族のSNSへ「爽彩さんが他殺だったというのは本当ですか?」と、ダイレクトメッセージが送られてくることも頻繁にあるという。
だが、爽彩さんの死因は「他殺」ではない。
「失踪当日、自殺についてLINEでほのめかしていたものの、どこまでその意志があったのかは不明です。
なぜ(死体が発見された)公園にいたのか、その経緯や亡くなった際の詳しい状況もよくわからないのです」(爽彩さんが失踪した当時、捜索を行った近親者)
「廣瀬爽彩さんの死体検案書」を独自入手
ここに文春オンライン取材班が独自入手したA4用紙1枚の「爽彩さんの死体検案書」がある。同書は3月24日、爽彩さんの遺体が発見された翌日に、旭川医大で行われた司法解剖の結果を記したものである。
同書にはこうある。
この検案書からどのようなことがわかるのだろうか。
検案書にも詳しい内科医のA氏は、以下のように解説する。
「爽彩さんの死体検案書」医師の解説
「検案書からは、この方が低体温によって体温が奪われ亡くなったことが、十分に裏付けられていると思います。
一般に司法解剖をする場合、まずは外見を問題にします。
生きているときに殴られたり、蹴られたりといった暴行行為を受けた場合は生体反応がそのまま死体に残った状態になります。
外傷(-)と書かれているのは、出血や打撲などの暴行の跡がないということ。
例えば、凍傷は低体温で血の巡りが悪くなり、血の巡りの悪い部分が壊死してしまうため、亡くなれば跡が残ります。
しかし、死体にその凍傷の跡もない。つまり、全体に体温を奪われて、比較的短時間で死に至ったと言えます。
次に、窒息すると低酸素となるから、臓器を調べれば最後の状態が保存されます。
仮に窒息があると、どうして呼吸が適切にいかなかったのかということで、事件性が出てきますが、窒息(-)と書いてあるので、そういった所見はないということです。
疾病(-)は、内臓が健康な状態で持病がないということ。
薬物に関しては、血液を調べると血中に人工的に入ってくる成分のピーク(頂点)が検出できます。
服毒自殺などの高い濃度の薬物のピーク(頂点)は確認されず、決められた濃度で治療していることが確認された。
そのため『薬物血中濃度は治療域』と記されています。
尿頂留というのは膀胱に尿が確認できたということ。監禁されて水が与えられないなどの酷い脱水状態には陥っていなかったということが言えます」
そして「死因の種類」として、「自殺」や「他殺」ではなく、「その他及び不詳の外因」という項目に○がついている。
「爽彩さんが死ぬ目的で公園の寒い場所へ行き、自らの意志で凍え死んだのか、公園で考え事をしているうちにそのまま寒くて意識が遠のき、残念ながら見つからず命を落としたのか、それは解剖の所見では明らかにすることはできません。
つまり死因の種類として『自殺』かどうかは判断できない。
『他殺」については、これまで述べてきた解剖所見において、暴行や窒息、監禁、薬物を盛られた可能性などが否定されていることから、そうとは言えない。
あくまで偶発的に発生した低体温症によって死に至った。
『死因の種類』として、『その他及び不詳の外因』という項目に○がついているのはそういうことです」
警察は「あの天候では、3時間くらいしか体力的にもたなかったのでは」
前出の近親者が、2月13日、爽彩さんが失踪した当時の様子を明かす。
「失踪当日、爽彩を車で探しているときに車内の外気温計や街中の温度計はマイナス17℃を指していました。
雪が降っているほうがまだ暖かくなるのですが、あの日は晴れていて、放射冷却でさらに冷え込む夜でした。爽彩が行方不明になった3日後に旭川には大雪が降りました。
猛吹雪で膝くらいまで雪が積もり、車で捜索を続けましたが雪で視界が悪く、捜索は難航しました。
警察には『あの天候では、3時間くらいしか体力的にもたなかったのではないか』と言われました」
爽彩さんの遺体は失踪時と同じ、薄手のパンツとTシャツ、上にパーカーを羽織っていただけの状態で発見された。
「ネット上では、爽彩が何者かに連れ出され、遺体発見時には一部の所持品がなくなっていたという話がまことしやかに流れていますが、事実無根です。
財布は自宅に置いたままで、スマホもリュックも長靴も、すべて所持品は遺族の元に返却されています。
爽彩が見つかった場所が公園の土管の中だったという話もありますが、これも事実ではありません。
土管で見つかったのなら、警察の方がスコップで掘り起こす必要もありませんから」
SNSで母親が捜索の協力を呼びかけると「虐待していたんですよね」
爽彩さんの母親は、爽彩さんの失踪当時から現在まで様々な誹謗中傷を受け続けてきた。
「母親がFacebookで捜索の協力を呼びかけると、
『庭を調べろ。土の中に埋まっている』
『虐待していたんですよね』
『行方不明はデマですよね?』
『どうせ母子家庭なんだから貧困理由でしょ』
『この人、生活保護なんだって』と、
事実ではない心無いメッセージが送られていました。
最近では、興味本位でボランティアを装った人が自宅に押し掛けたり、遺族の把握していない募金活動が行われたりもしています。
遺族の知らないところで爽彩さんが生前に描いた絵を商品化しようとする人まで現れ、遺族は心を痛め、とても苦しんでいます」
遺族は「証拠を見つけたら警察や第三者委員会に提出してほしい」
文春オンラインの取材に爽彩さんの遺族が心境を明かした。
「(事実無根の情報を流すのは)本当に止めてほしいです。
おもしろおかしく、それが事実として流れてしまいます。
人の名前や顔を勝手にネット上で晒していいものでもないと思います。
人の人生をぐちゃぐちゃにしていい権利はないですし、顔写真、名前を手あたり次第晒すというのは爽彩が怖い思いをしたイジメと同じ行為だと思います。
爽彩は人を恨むことはしない子でした。なにも悪いことをしていない無関係な子を社会的に抹殺するような行為を遺族側は望んでいません。
なにか今回の件で証拠を入手した方がいらっしゃる場合はネットではなく、警察や第三者委員会に提出してほしいです」
5月31日、爽彩さんの遺体が見つかった公園は新緑に包まれ、公園が見渡せる丘の上には花束とメッセージが残されていた。
《いままでこの辛い世の中で
たくさんたくさん頑張ったね
あなたはとても強い人です!!
あなたはこれから爽やかな風の吹く
彩どりのある世界で心穏やかに過ごして
安らかに楽しく平穏でありますように》
6月16日に開かれた旭川市議会では、昨年11月に爽彩さんと思われる女子生徒が地元の子ども相談室に「SNSを通じて攻撃された」と、イジメ被害を相談していたことが明かされた。
彼女は「死にたいと思って何度もリストカットしている」とも話していたという。
7月からは関係者への本格的な聞き取りが始まり、第三者委員会の第3回会合が開かれる予定だ。