同級生を自殺&自殺未遂に追いやっても不問になった訳?
いじめ主犯は教師ウケが良く…
同居翌日、エロ本トラブルが引き金で自殺
事件が起きたのは数年前、学生寮を併設したある高校でのことだ。交通の便がよくないこともあり、低学年は原則として2人1部屋で寮生活を送る。入学当初は出席番号順で部屋割りされるが、しばらくすると友人同士での部屋割りになるという。
入学から1か月が過ぎた頃、高校1年のワタナベ君(仮名)は、サトウ君(仮名)と同室になることになった。サトウ君の相部屋の相手が見つからず、急きょ同室の相手が別室に行くことになったワタナベ君と、残り者同士のように同室になったのだ。
その時点で、サトウ君はすでにいじめのターゲットになっていた。加害者グループを仕切っていたのは、ヤマモト(仮名)というクラスのリーダー格の生徒だった。
サトウ君は、ヤマモトとその仲間から日常的に殴る蹴るといった暴行を受けていて、LINEで1日に400件近いスタンプを大量送信されたり、私物を隠されることもしょっちゅうだった。耐えかねたサトウ君は、隠れてリストカットもしていた。
「複数の生徒からサトウ君は、いじめ被害を受けていました。これは寮生活の宿命とも言えますが、一度ターゲットにされると、教室だけでなく寮内でもいじめは続きます。つまり24時間、逃げ場がなくなるわけです」(阿部氏)
ワタナベ君がサトウ君と同室になった翌日、ヤマモトたちは別のクラスメートの持ち物であるエロ本をサトウ君の棚に隠し入れて、その反応をからかおうと計画した。同室のワタナベ君は「黙っとけよ」と脅され、何も言うことができなかった。
自分の棚にあるエロ本に気づいたサトウ君は激怒して、窓からその本を投げ捨てた。しかしその結果、本の持ち主とサトウ君はトラブルになったのだ。
その一件にショックを受けたサトウ君が、夜になって姿を消してしまったので、心配に思ったワタナベ君はトイレなど様々な場所を探したのだが、見つけることができず、部屋に戻ったという。
外階段4階の踊り場から手すりを乗り越えて、飛び降り自殺したのです。
サトウ君の自殺後、学校は第三者委員会を設置。
外部の取材には応じないよう、生徒たちには箝口令が敷かれた。
自殺の調査が始まると、加害者としてやり玉にあがることを恐れたヤマモトは、
こんな誹謗中傷を学校中で触れ回ったのだ。
〈サトウが死んだのは、ワタナベのせいだ〉
〈サトウを殺したのは、ワタナベ
〈あいつは殺人鬼だ〉
〈キモイ、頭おかしい。恥さらし〉
加害者のオモテの顔にダマされる教師たち
この噂を聞いて、上級生が部屋まで見に来たり、面識がない生徒がとんでもない奴だと思い込むなど、ワタナベ君は学内でどんどん孤立していった。
クラスメートもヤマモトに同調して、いじめのターゲットがワタナベ君に移った。
寮生活のため、部屋を無意味にノックされたり、無断で入られることもあった。
消臭スプレーをかけられたり、私物を土足で踏みつけられることもあった。
サトウ君と同じく、殴る蹴るの暴行が日常的に続いたのだ。
ヤマモトは「誕生日祝いに眉毛を剃ってやる。
眉毛を剃ったら気持ちが変わる」などと言って、仲間たちと一緒にワタナベ君の眉毛を剃り落とした。ワタナベ君は片方の眉だけがなくなり、周囲に笑われたという。
「実家に里帰りした際、ワタナベ君は睡眠薬を大量に服用して自殺未遂しました。
すでにサトウ君という自殺者が出ていたにもかかわらず、加害者を野放しにしたままの学校の対応はずさん過ぎると呆れます。
しばらくして母親から相談を受けた私は、ワタナベ君本人と数少ない友人たちから聞き取りを行って、証拠を集めました」(阿部氏)
しかし、ワタナベ君の保護者と学校とのやりとりは、思うようには進まなかった。
教師たちは自殺未遂したワタナベ君ではなく、加害者であるヤマモトの側に立ったのだ。
ヤマモトは教師ウケが非常に良く、ハキハキとした態度で返答も巧みだった。
教師に見せるオモテの顔と、苛烈ないじめをするウラの顔が、完全に別人格。
優等生であるヤマモトがいじめ加害者となるのは、教師たちにとっては“不都合な真実”だった。
「それから起きたことは、隠蔽に走ったといって過言ではない学校の対応でした。
ヤマモトが、『ワタナベ君をいじめたのは俺じゃなくて、あいつだ』と言ったことを真に受け、ワタナベ君の友人がいじめの犯人扱いされました。
ワタナベ君が、お土産のやり取りとしてジュースをあげたことが『たかり行為』だとされたのです」(阿部氏)
失われた命は戻らない
ワタナベ君の友人に対する教師たちの態度は、ひどいものだった。
「いつでも退学させることができるんだぞ!」
「こっちが言うことにハイと言うまでは帰さないぞ!」
などの暴言のほか、物を投げつける、
机を叩いて威嚇するといった
拷問のような聞き取りが4時間に及び、
ワタナベ君の友人は停学処分にされたという。
さらに耳を疑うことが起きる。ワタナベ君は「提出物の期限を守らなかった」として、不当に留年させられたのだ。
学年が変われば、いじめの件はなかったことになるとでも学校側は考えたのだろうか。
そのような学校側のやり方に対して、阿部氏が助言して、ワタナベ君の両親は第三者委員会に働きかけを行った。
その結果、ワタナベ君に対する多くのいじめが認定されて、モニタリング委員会も開かれることになった。
しかしながら、サトウ君の失われた命は戻らないし、ワタナベ君の受けた心の傷は癒えることはない。
学校の罪、ヤマモトの罪は重いと思われるが、一連の事件に対する調査はすでに終了し、ヤマモトはなんの罰も受けず、現在、誰もが知る大手企業に内定したという。
「サトウ君が亡くなった時点で、学校はきちんとした調査をすべきでした。
そのことを怠ったから、ワタナベ君も被害に遭った。
この学校は預かっている子供の命を、あまりにも軽視しています。
とくに彼の留年に関与した教職員は、教壇に立つ資格はないと思います。
このような事件を扱うたびに言いしれぬ徒労感と、もっと早く何か手を打てなかっただろうかという後悔に襲われるのです」(阿部氏)