日本選手のメダル獲得数だけを見れば大成功だった東京五輪だが、あまりにもトラブルが多かったのは消せない事実。特に大騒ぎになったのが、開会式の楽曲担当ミュージシャンのいじめ騒動だ。これは、過去のインタビューのいじめ告白が蒸し返されたものだったが、いじめられた経験を持つ者にとっては、その被害の傷は一生モノだ。
都内に住む会社員のYさん(40代男性)は、恩師の葬儀に出席した際、シビアな現実を目にした。
「数年前、高校時代にお世話になったH先生が亡くなり、葬式に行くと、同級生が何人か来ていました。葬儀後軽く一杯飲むことになりましたが、気になったのはそのメンバーです。その中にはクラスの番長的存在だったKと、KにいじめられていたSがいたのです。
内心ヒヤヒヤしていましたが、卒業から20年近く経っており、場は和やかに進みました。お酒が入ると口も軽くなり、誰かが『KとSが一緒に飲んでるなんて信じられない』と言うと、Kは頭を下げて過去の行動を詫び、Sも『昔のことだから』と笑みを浮かべたため、自然と全員から拍手が沸きました。
しかし帰る方向が一緒だったSと電車で話していると、Sは忌々しげに『一生会わないと思ってたのに……』『許すわけがない』『あの場でモメたらH先生に申し訳ないから』と言い、『本当は殴りたかったけど、あんなヤツは殴るにも値しない』と吐き捨てました。私はノンキに拍手したことを謝りましたが、Sの心の傷を思うといたたまれなくて……」(Yさん)
これだけ声高に問題が語られながら、どうしてもなくならないいじめ問題。都内の小学校で教壇に立つOさん(40代男性)が、近年のいじめの傾向について語る。
「いじめに良し悪しなどありませんが、昔は学校が終わればいじめもお終いで、家という避難場所がありました。しかし今はいじめのツールがネットやSNSに変わっており、いじめられっ子は24時間いじめに晒されることになります。しかもネットやSNSなどのいじめを教師が把握するのはとても難しい。年輩の教師は『インターネットのことは分からない』と若手任せにしますし、こちらとしてもプライベートの時間に四六時中ネットを徘徊しているわけにもいきません。
我が校では教師と生徒がSNSで繋がることは原則禁止なので、直接被害を訴えてもらうか、問題があることを告発してもらうのが有効ですが、そうなると今度は“密告者探し”になってしまうので難しいですね」(Oさん)
インターネットが一般に普及するようになったのはここ20年ほどのこと。教師の中にはネットリテラシーがゼロに等しい人もおり、生まれた時からネットがある今の子供たちに対応するには限界があるとOさんはいう。
本当にいじめっ子の“凡ミス”だったのか?
そんなOさんだが、かつて担当クラスのいじめっ子がぴたりといじめを止めた事件があったそうだ。なぜいじめをやめたのに“事件”なのか? Oさんが振り返る。
「私のクラスにA君というヤンチャな子がいました。身体が大きく、運動神経も抜群で、周りの子をすべて子分のように扱い、自分の気に食わないことがあると教師にも歯向かってくるような子でした。
6年生が全員参加するサマーキャンプでのことです。最終日、忘れ物を1か所に集め、生徒に確認させていると、その中に白いブリーフがありました。ブリーフには『A』と書かれており、お漏らしをした跡があります。A君は“オレのじゃない!!”と強く否定しましたが、Aという名字はA君だけ。この一件以降、A君は卒業まですっかり大人しくなりました」(Oさん)
当初は誰もが、「汚れた下着を発見されたA君が、恥ずかしさのあまり、自ら“お山の大将”の地位を退いた」と考えていた。しかし、よくよく考えると不自然な点がいくつもあったという。
「先生方に聞くと、汚れたパンツを忘れ物コーナーに置いた人は見つかりませんでしたし、当時の6年生の間では『白いブリーフ=ダサい』という認識で、そもそも白いブリーフを履いている子はほとんどいませんでした。お漏らしをすると、保健室で貸し出されるのが白いブリーフだったので、白いブリーフを履いているだけで冷やかされるという事情もあったようです。
そもそも、汚れたパンツを人目に付く場所に置き忘れるというのがおかしいですし、隠せる場所もいくらでもありました。A君の横暴に耐えかねた誰かが、A君への復讐を図って汚れたパンツを用意したのではないかという憶測も飛びました」(Oさん)
いじめは絶対許されないが、もし、これがいじめられっ子の“謀略”だったとしたら、それはそれで、きちんと処分すべきだったのか……。その後、A君のいじめがぴたりと止んだのは良かったが、Oさんは何をどうするのが正解だったのか、いまだに結論が出ていないそうだ。