いじめられっ子高卒パチプロの経験で学んだ「半身ずらし」経営術
注目企業の社長の本音に酒場で迫る「ミッドナイト・インタビュー」。今夜はベーシック代表取締役の秋山勝氏です。2004年に創業したベーシックは、比較メディアを皮切りに、現在ではWebマーケティング事業を軸にして、Webマーケティングメディア「ferret」やWebマーケティングツール「ferret One」を展開しています。8回の事業売却を経て現在のカタチになったというベーシックですが、代表の秋山氏は高卒でパチプロだったという経歴の持ち主。一見、Webマーケティング事業につながりがないように見えるパチプロにもヒントが!? それでは、さっそく秋山氏の素顔に迫ります。(以下、敬称略)
──それでは、乾杯!
秋山 乾杯!
──2004年創業ですね。現在はWebマーケティング事業ですが、創業当初はどんなサービスを?
秋山 最初は引っ越しの一括見積もりサービスです。当時、比較サイトがなくて、留学、フランチャイズ、家庭教師、結婚相談所、ネット証券、派遣会社と比較サイトを横展開して広げていきました。
リーマンショック前は、某証券会社の月の新規口座開設の半分がうちのサイトからでしたよ。でも、その事業は売却しました。
──儲かっていたのに売却したんですか。
秋山 事業売却は8回しました。いずれも売却目的ではなく、会社の向かうベクトルから外れたものは売りたいと思って売却しました。
──会社の方針が結構、変わっていくんですね。
秋山 創業10年目くらいに問題解決型の事業と定義したんですが、それまでは、機会を見つけては事業を興していました。BtoCも、BtoBも、BtoBtoCも、Eコマースも大概やりましたね。海外の飲食プラットフォームとかもありました。
──海外の飲食も!? 立ち上げた事業の共通項ってあるんですか?
秋山 抽象的ですが、ギャップを見つけて事業化していることが多いです。スマートフォンのケースを販売するEコマース事業もそうでしたね。
ドコモがiPhoneをまだ扱っていない時期なのに、家電量販店へ行くとスマホケース売り場にはiPhoneケースが大量にあった。かたやアンドロイドのケースは全然なくて、何でだろうと思ったんです。
そしたらiPhoneはモデルサイクルがだいたい2年なのに対して、アンドロイドは短く半年で終ってしまうものもあるためメーカーは調整できないということでした。
それで、ちょうど3Dプリンターを活用したいと考えていたので、大量生産じゃなくオンデマンドで、バーチャルに商品画像だけ並べて、売れた分に応じて3Dプリンターで作ったんです。そしたら、これがすごく当たった。
──たまたま見つけたんですね。でも今の主力はマーケティングSaaS(Software as a Service)領域。そこが一番業績がよかったんですか?
秋山 いや、2014年に企業向けのマーケティングSaaS事業、アプリ事業、ECのケース販売事業、海外事業の4つをヨーイドンで始めたんですが、全部成果が出て、逆に困ってしまった。一番早くブレイクしたのがアプリ事業で、1作目のカジュアルゲームがヒットして500万ダウンロード。でもカジュアルゲームってマネタイズが難しい。
だから、ゲーム好きな人はどんなゲームも好きだと仮定して、簡単なゲームからソーシャルゲームに送客するアドネットワークを作ったら、これがブレイクしたんです。
おもしろいくらいに伸びた結果、Appleから名指しで、うちのSDK(ソフトウエア開発キット)を入れてたら審査を通さないと各ディベロッパーに通達されました。その後、事業内でピボットさせて続けましたが、アフィリエイトネットワークみたいな状況になったのでこれは違うと思い売却しました。
──なんでもやっていたんですね。
秋山 そうですね。「半身ずらし」って言ってるんですが、自分たちにノウハウがある部分が100%だとしたら、そのノウハウを半分ずらすんです。半分はわかってるけど半分はわからないという動きをすると新しい挑戦ができます。それで半身ずらしを2回すると実は未知の領域が1個できている。
──半身じゃなくて「全身ずらし」になる。
秋山 はい、そういうやり方で事業を拡大してきました。一見、海外飲食も脈絡なく見えますが、創業時からフランチャイズのマッチングサービスをしていたので、フランチャイズについてはよく理解していた。でも海外はわからないから、持ってるノウハウを使ってやってみようと。
──創業期からそういう考え方なんですか?
秋山 ずっとそうですね。抽象度を上げて物事を考えるんです。事象として見たら全く異なるものの共通項を見つけるのが得意なんでしょうね。
比較サイトを運営していた時も社員20人でいろんな業界のサイトを20個くらい手がけていましたので驚かれました。引っ越し会社の人は引っ越し業界を特殊だと言うし、フランチャイズの人はフランチャイズを特殊だと言う。
でも結局、企業の活動は企業と個人、または企業と企業のマッチングでしかないので、その行為自体には特殊性ってないんですよね。
肥満でいじめられっ子。オール1の成績から学校で1番に
──どうやってその共通項を見つける技を磨いたんですか?
秋山 自然とそうなったんですよね。中学時代に肥満児でいじめられていたんです。身長が低いのに体重が80キロ。勉強も運動もできなくて、テストの点数は0点ばかり。給食時に食べてるおかずに牛乳をバーって入れられたり、鞄を切られたりしてました。
でもいじめられると、すごく客観的に風景が見える瞬間があって。例えば、いじめには3レイヤーあるんです。いじめている人、取り巻き、無関心層。自分はどちらかというと、取り巻きや無関心層に屈するのが悔しくて、だからいじめられても学校には行った。休むと屈するような感じがしてすごく嫌だった。
──その頃から客観的に周りが見えていたと。
秋山 「なぜ?」っていう思考がすごく強いので、なぜこの人はこのシチュエーションでこの発言をしたのか、なぜこの人は僕をいじめようと思うのか、人を観察してはずっと考えていました。
いじめられている自分を客観視したらダイエットにもつながりました。こんな体型だからいじめたくなるのだろうと仮説を立て、じゃあ痩せたらどうなるのかを検証して。
──すごいダイエット法ですね。痩せたら変わりました?
秋山 見事に変わりましたよ。道で会ったときには気付かれないし、いじめもなくなりました。それだけじゃないけれど、やっぱり見た目は大事なんだと思いましたね。
──当時、いじめを止めてくれる人はいなかったんですか?
秋山 1人だけ仲良くしてくれた友だちがいて、彼が高校に行くきっかけを作ってくれました。
ずっと成績はオール1だったんですが、中3の時に親に高校くらいは入ってと言われて、その友人に相談したら「俺の塾の先生いい人だから」と塾を紹介してくれた。
──それで勉強を始めたんですね。
秋山 塾の先生もほんとにいい先生で。中3の1学期でしたが、国数英のテスト結果を見て、「英語は間に合わないから全部捨てろ。国語は話をしている限りでは支離滅裂じゃないから大丈夫。数学も数字に強いから2教科で点を取ろう」と言われた。それ面白いなと思って言われた通り勉強したら、2学期の期末テストの成績が学校で1番になりまして。
──え!? すごくないですか。
秋山 その時は本当に勉強が楽しかったんですよね。秋山なのでアイウエオ順で毎回1番に答案を返されるんですが、いじめられっ子なので、周りからテストの点数を見せろと言われていた。それで僕が0点だから、みんながそれを見て安心するのがお約束だったんです。
──どうせお前は0点だろと。
秋山 でも、その時のテスト結果が100点と98点。もうクラスがざわめきですよ。そのあと先生に職員室へ呼び出され、お前カンニングしただろと。でも、秋山は一番前の席で先生の前にいるからカンニングなんてできないと話したら、先生も納得して。
勉強したいものがないから高卒でパチプロ。その後、起業
──それくらい奇跡的だったんですね。それで高校から大学へ?
秋山 いや、高卒でパチプロです。
──へぇ!?
秋山 なんか変に潔癖なところがあって、勉強する気がないなら大学行っても意味がないと思って。テストが0点だった時もそうで、記号問題は適当に選べば何点かにはなるけど意味ないので回答しなかった。
だから大学も行こうと思えば行けるけど、勉強したいものがないなら行く必要ないよねって。
──それでパチプロというのは。
秋山 単にパチンコが好きだったからです。好きなことで生きていけたらなと。でも結果的にパチンコの世界で自分の「なぜ?」の思考が役立った。
──どういうことですか?
秋山 パチンコ打ちながら考えてたんですよ。パチンコは勝ったり負けたりが運だとしたら、パチンコ店も運で運営しているのか?と。運なら儲かる時と儲からない時があるけど、パチンコ屋が潰れないのはなぜだと。
つまり恣意的な何かが働いている。コントロールできなければ、客と同じでダメになる。じゃあ何をコントロールしているのか?を考えていった。
そしたらパチンコ台のスペックや、店によっての更新タイミングだったり法則性があったりして、そういうデータをためるといろいろ見えてきたんです。
──どんなデータを。
秋山 毎日パチンコ屋に通うと感覚的にあの台が出そうだなというのがあるんですが、その感覚って無意識に法則性を理解し始めるってことなんです。じゃあ、その感覚を言語化して書き出せば法則が見えるなと。
書き出すと、当たり外れはあるけれど、Aというお店に法則性があるなら、Bというお店にも法則があるだろうと考えてBを調べる。AとBにあるならCにもあるし、Dにもあるよねと。
そうすると今度はAとBとCとDを比べて、一番いいところに行ったほうがいい。だから、店が当たりを出そうとしているかどうかを見つけてそのお店に行く。新装開店など客寄せタイミングかどうかを見たりですね。
──パチンコ店を比較していったんですね。
秋山 すると今度は勝ち負けの波があるんですよ。それだったら平均化したほうがいいなと気づいた。1人でやるよりも2人、2人でやるよりも3人ですれば分散投資ができるなと。みんなで情報をシェアして、一緒にやることで価格の変動性を平常化できると気づいた。
──パチンコで分散投資……それを感覚的にしていたと。
秋山 当時はそんな言葉知りませんけどね(笑)。それでみんなで一緒に打ち始めたら、今度パチンコは射幸心があおられるゲームだと気づいたんです。自分たちの「勝ちたい」と思う感情がゲームを支配しているなと。
例えば3万円使っているんだからもうすぐ当たりが出るって思うのは、実は何の根拠もないですよね。完全抽選なので1万円使おうが10万円、100万円だろうが、1回は1回でしかないのに、なぜかそういう気持ちになる。
データをとると午後6時までに2万円以上使ってたらほぼ負けます。つまりお金を注ぎ込みたくなる気持ち、勝ちたい気持ちがマイナスを拡大させていく。だから大事なことは、勝つことよりも負けないことなんです。
──なるほど。
秋山 負けない打ち方をして、チャンスが来た時に張れることが勝ちを最大化する。それで、そういう法則を全部整理して当時チームをマネジメントしていました。あとはみんなで共同投資して、みんなで分配するノリ打ちをしていました。要はマイナスにさえならなければいいという環境ができれば、基本的には蓄積されて行くんです。
──パチンコでそこまでマネージメントしてたんですね。
秋山 高校卒業後、普通のサラリーマンより収入が多かったですよ。
──よくパチプロやめられましたね。
秋山 好きなことをやってるつもりだったのに、ある日つまらなくなってしまったんです。パチンコでパフォーマンスを出すには感情を殺したほうが最大化されますが、自分が好きだったパチンコって感情に身をゆだねて楽しくすることだったなって。
パッションを持つとダメになるし、お金を残そうと思えば思うほど、その気持ちが失われる。高校卒業して5年くらい、23歳でつまらなくなった。そして、気づいたら自分を自己肯定できなくなっていたんですよ。
──それでパチンコをやめた。そこからはどうされたんですか?
秋山 10年間、サラリーマン。最初は商社という名の何でも屋。何を売ってもいいなら売れるだろと思っていたら全然売れませんでした。
(後編に続く)