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新学期に多発する子どもの自死 防止のために必要なのはどんな大人?

いじめられ続けた石川県の女性。サポートハウスを出る際に山本実千代さんにあてて手紙を書いた。「わがままで素直じゃなく誰にでも嘘をついてきた。それでも手離さずに見守ってくれた。ありがとう」と。いまは結婚し、夫とともに穏やかに暮らす(撮影/ライター・島沢優子)

いじめられ続けた石川県の女性。サポートハウスを出る際に山本実千代さんにあてて手紙を書いた。「わがままで素直じゃなく誰にでも嘘をついてきた。それでも手離さずに見守ってくれた。ありがとう」と。いまは結婚し、夫とともに穏やかに暮らす(撮影/ライター・島沢優子)

 

9月1日は「18歳以下の自殺者数が一年で最も多い日」だ。テレビやSNSで「死んではいけない」のメッセージが飛び交う中、今年もこの日の前後に何人もの中高生が首をつったりマンションから飛び降りたりした。いずれも自殺とみられるという。

 

20歳未満の自殺者数のみ増加(AERA 2017年9月18日号より)

 

ずっと死のうと思っていた。

 石川県内で暮らす20代の女性。小学校4年のときに母親が病死し、姉、妹とともに児童養護施設に預けられた。転校した学校で、壮絶ないじめが始まった。給食のうどんをすくったら黒いものがへばりついている。誰かが放り込んだゴキブリの死骸だった。

「死ね!」「消えろ!」

 そんな落書きでノートは真っ黒。大量の押しピンが置かれた椅子に座ってしまったこともある。机と机をくっつけようとしたら、その席の女子にシャープペンシルで腕を刺された。

 施設では、風呂に入れるのは数日に一度。男子は寄ってきては叫んだ。

「臭い!」「汚い!」

 同じ施設で暮らし、やはり学校でいじめられていた1学年下の女子と、帰り道で言い合った。

「もう、いやや。このままどこか高いところから飛び降りたほうがいいね」

「うちら、なんで生まれてきたんやろ」

 痛くて、つらくて、何度も家出した。担任や施設の職員に訴えても、

「あんたが悪いんちゃう?」

 女性は振り返る。

「大人は自分の考えしか言わない。自分の話は聞いてくれない。全員、敵だと思った」

●中高年の自殺は減ったのに20歳未満の自殺は横ばい

 卒業するとき、教室を出ようとしたら担任が抱きついてきた。

「いじめられてるの、止められなくてごめんね」

 泣き叫ぶ担任の体は温かかったけれど、女性の心は冷え切っていた。

「ほったらかしにしたくせに」

 大人の欺瞞(ぎまん)が許せなかった。

 同級生が全員一緒に進学した中学校でも、いじめは続いた。靴や体操着がなくなるのは日常茶飯事。クラス全員に無視された。いじめを知った担任は別のクラスだった同じ施設の女の子を自分のクラスに移すという措置を講じたが、案の定、無駄だった。

「私は気持ちを聴いてほしかっただけ。いじめだけじゃなく、自分の身の上とかいろんなことがつらかった。今の若い子が追い込まれる原因も、ひとつじゃないと思う」(女性)

 厚生労働省自殺対策推進室発表の「人口動態統計に基づく自殺者数」によると、2016年の自殺者は2万984人。過去10年で最も少なく、特に中高年の自殺が減った。

 しかし、20歳未満の自殺者は依然として減らない。

 16年は499人で15年の535人から少し減ったものの、17年は1~3月の3カ月で135人。昨年同時期の108人より27人も多い。

 兵庫県などでカウンセラーを務め、『学校現場から発信する 子どもの自殺予防ガイドブック いのちの危機と向き合って』の著者でもある阪中(さかなか)順子さんは、「(27人増は)重い数字」と話す。少子化で子どもの数は減っている。自殺者数が横ばいでも人口あたりの自殺死亡率は高まっていることになるのに、実数も増えている。

 18歳以下の自殺者数が最も多いとされるのは、新学期が始まる9月1日。今年も8月30日から9月1日にかけて首都圏で中高生4人が自殺を試みたとされ、うち3人が死亡している。

 阪中さんによれば、自殺を伝える報道も自殺を誘発する要因となっている可能性がある。中高生は、ネットニュースなどで同世代の自殺の詳細を知る。

「報道の影響を受けると、ハイリスクな子どもは自分も命を絶つしかないんだという感覚に陥る傾向がある。自殺予防のための記事が増えたのはいいことですが、ハイリスクな子にとってプラスなのかどうか、悩ましいところです」(阪中さん)
●誰かと充実感を共有すれば子どもの心はほぐれる

 若い命を守るにはどうすればいいのか。冒頭の女性を救った「おばちゃん」がヒントをくれた。

「いつ、どうやって死ぬか」を考えているうちに高校生になっていたという石川県内の女性。高校でもいじめは続き、女子更衣室でお金がなくなって犯人にされたことから不登校に。かろうじて卒業し、住み込みで働き始めたもののほどなく辞めてしまう。

今度こそ生きていても仕方ないと思ったとき、金沢市内の自宅を開放して生きづらさを抱えた人たちの日常生活を支援する「サポートハウス」代表の山本実千代さん(57)と出会った。

「大人は敵」と思い込む女性は当初、住人たちが「おばちゃん」と慕う山本さんにも心を開かず、わざと目の前でたばこを吸ったり「ババア、ウザいんだよ!」と暴言を吐いたり。ところが、山本さんは動じない。何も言わず黙って、ただただそばに居続けた。

「こっちも人間。腹が立てばけんかもしたし、『ウザいおばちゃんです!』とジョークも言った。『この子を何とかしなければ』と肩に力を入れるのをやめれば、大概のことは待てる。大人の都合ではなく、子どもに合わせることが大事なんです」(山本さん)

 不登校の女子高生から軽度の障害を抱えた大人まで、さまざまな人との共同生活。山本さんは女性にも、掃除や洗濯の当番をやらせた。自身が取り組む「子育て農業応援団」も手伝わせた。

「土を触ると人は穏やかになり、周囲と交わることで心も耕せる。そもそも、生きづらさの根っこは孤立。その子の心に寄り添う人がいないと、子どもの心は孤立し簡単に壊れてしまう。黙って話を聴いて寄り添うことが一番だと思う」(同)

 土を触ることに限らない。台所に立って料理をする。一緒に食べる。空腹を満たす充実感を誰かと味わうことで、子どもの心はほぐれるという。

●励ましも心配も望まない 大人は子どもの安全基地に

 前出の阪中さんは長く、自殺予防プログラムの出前授業も行っている。中学生や高校生に「信頼できる大人はどんな人?」と尋ねると「話を聴いてくれる人」と答える生徒が多い。

 NPO法人「暮らしのグリーフサポートみなと」代表の森美加さん(46)も、このことを実感している。06年に中学2年生だった長男をいじめによる自殺で亡くした。いじめを誘発する担任の不適切な発言にも、長男が言葉の暴力を含む激しいいじめを受けていたことにも、気づかなかった。

「死んでやる」と言う長男を同級生らはトイレで取り囲み、「こいつ死ぬって。最後だからズボンを脱がせよう。明日は来るな」とズボンを脱がせた。その日のうちに長男は命を絶った。傍らにいじめを示唆する遺書があった。

「まさか自分の息子が死を選ぶなんて、信じられなかった」

 と森さん。小2から少年団でバレーボールを続け、中学でもバレー部。厳しい指導に耐えてきた長男は根性がある、強い子だと思い込んでいた。

「息子は逆に、嫌なことや理不尽なことも我慢しなくてはいけないと考え、それが限界に達したのかもしれない」

 長男の自殺後は、「親の対応が悪かったのでは?」「親なのに気がつかなかったの?」という声も聞こえてきた。不眠症などに苦しみ、精神科に通って薬の力を借りてやり過ごした。

 次男と三男の子育ての手が離れた11年に上京。知らない土地で知らない人と人生をやり直すと決めてケアマネジャーの資格を取り、新たな人生を歩み始めたが、長男を失った喪失感が消えることはなかった。

「同じ悲しみを抱えた人と話したい」

 ネット検索でヒットしたのが、「グリーフサポートせたがや」だった。

 グリーフは「悲嘆」の意味。大切な人を亡くした人をケアする組織だった。グリーフケアの講習会に参加し、「元気のない子がここに入ってきたらどうするか」という質問に自信を持って「励まして理由を尋ねます。どうして元気がないの?って」と答えたら、こう言われたという。

「それは森さんが心配だからだよね?森さんの意思でしょ? でも、大切にするべき軸は、自分ではなく、向き合う相手である子どもに置いたほうがいい。励まされることさえ、子どもは望んでいないかもしれないよ」

 グリーフケアは生きづらさを抱える子どもにも有効だ。何も言わず、ただただ寄り添う。これは、サポートハウスの山本さんの姿勢とも重なる。

 森さんにとってグリーフケアを学ぶことは、我が子の自殺を防げなかった自分自身と向き合うことでもある。「あんなこと言っちゃった……」と泣き叫びながら当時を思い出す作業は、過酷を極めた。亡くなる直前、長男は突然「競馬の騎手になりたい」と言い出した。部活がハードなのに減量も始めた。来年は3年生なのに、ばかなことはやめなさい──。森さんはそう言って取り合わなかった。いま、こう思う。

「息子にとって、私は『話を聴いてくれる大人』ではなかったのかもしれない。心の不調に敏感になるのも大事ですが、前もって大人が子どもの安全基地になることは何よりの予防になる」

 長男を亡くして11年。長い年月をかけてたどり着いた結論だった。

●子どもを信じない大人を 子どもたちは信じない

 自治体も、若い命を救う方法を模索している。

 森さんの長男が亡くなった06年、足立区は自殺者161人と東京23区でワースト1になった。以来、自殺対策に力を入れ、16年までの5年間は減少傾向にある。若年層についても09年、他区に先駆けて自殺予防教育を導入。現在は公立の小中学校で「SOSの出し方教育」の出前授業を続けている。授業後は「大人に相談しようと思う」と答える生徒が増えるなど、一定の効果を上げている。

 昨年からは、夏、冬、春の長期休業明けに連絡なく欠席した生徒の安否確認も始めた。電話が通じなければ教員が自宅へ行き、ドアをノックする。同区衛生部こころとからだの健康づくり課の馬場優子課長は言う。

「子どもだけでなく、親御さんのほうも生きづらさを抱えていることも少なくない。親子とも、ここまで生き抜いてきた自分は『大切な存在だ』と誰かに認めてほしいはずです」

 自分を肯定できて初めて自分を大切にできるのだが、日本の子どもは諸外国に比べて自己肯定感が低いというデータがある。これは、日本の大人に「子どもを尊重する=甘やかす」という考え方が色濃く残るからではないか。

 子どもを信じない大人を、子どもたちが信じるはずがない。変わるべきは大人だ。生きづらさを抱える人々と向き合う山本さん、長男を失った森さんの「子どもを軸に」という言葉を、改めてかみしめたい。