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「中国人は採用しません」差別発言に在日コリアン3世が思うこと

ドラえもんとしんちゃん

毎週、金曜19時は子供の時間だった。小学生のわたしは妹2人とブラウン管の前にいた。

ドラえもん。また、ジャイアンスネ夫にいじめられたよぉ」

「しょうがないなぁ、のび太くんは」

ドラえもんが秘密道具を出す。

「いいなぁ、道具もらえて」

上の妹がつぶやいた。

道具を手にしたのび太ジャイアンスネ夫をぎゃふんと言わせたが、いたずらに使いはじめて、大失敗した。

「助けて!ドラえもん!」

のび太が泣きついて、1話終わった。

「ねぇ、まだ終わらないの?」

下の妹はいつもの展開に飽きた様子だった。

「もう1話ある。そのあと、しんちゃんだよ」

わたしたち兄妹の好きなアニメの名前を出せば納得すると思った。

「もう飽きた。あいつ、全然、反省しないじゃん」

上の妹がCMに映るのび太を指さす。

「じゃあ、何チャンがいいの?」

たずねてみたら、彼女たちはモーニング娘の特番が観たいと言い出した。

「えー。しんちゃんがいい」

興味がない番組を観たくなかった。

「いつもお兄ちゃんばかりずるい!」

下の妹が叫ぶ。

「しんちゃんは毎週やってるけど、特番はきょうしかやらない!」

上の妹もすかさずいった。

「ケンカするならテレビ壊すよ!」

わたしと妹2人の言い争いに気づいた母の大きな声が台所から聴こえた。

結局、しんちゃんは観れなかった。

原子力ってなに?」

「きのうのドラえもんとしんちゃん観た?」

翌日、近所の同級生と公園で遊んでるときに訊かれた。

「妹たちにチャンネル取られて、ドラえもんをちょっとしか観れなかったよ」

「マジか。めちゃくちゃ面白かったのにな」

すこしいじわるな笑みを浮かべていう彼は自慢したいだけだと思った。

「うちに昨日録ったビデオがあるよ」

「えっ!ほんと?」

まさかの展開に嬉しい声を出す。

「うん。ドラえもんだけになるけど」

「しんちゃんは好きじゃないの?」

「こないだ、いとこの兄ちゃんからドラえもん原子力で動いてるのを聞いて好きになったかな。」

原子力ってなに?」

「俺もよく分かんないけど、電気とか起こせるらしいぜ。なんかすごくね?」

「うん。すごい」

なにがすごいのか分からないまま、返事だけして、ドラえもんのビデオを借り、家に帰った。

ビデオを観てたら、母が買いものから帰ってきた。

「あれっ?近所の子と遊んでたんじゃないの?」

「あの子、4時からスイミング教室があって、早めに帰ってきた」

「へぇ、そうなんだ。あれっ?しんちゃんが好きなのに珍しいね」

画面を観た母は驚いてた。

「うん。借りたの」

「返すときはお菓子持って、お礼いいなさいよ」

「分かった。そうそう、あのさ」

あの子に言われた話をふと、思い出した。

〔PHOTO〕iStock

ドラえもんって、原子力で動いてるって聴いたんだけど、原子力ってなに?」

「電気を動かすエネルギーだよ」

「それって、すごいの?」

「詳しく知らないけど、すごくて、怖いものみたいよ。原子力爆弾が日本に落ちて、たくさんのひとがなくなったから。そんなことがあったのに原子力でつくった電気を使うなんてなんか変ね」

母はボソッといって、書道教室に通う妹を迎えにいき、わたしはキッチンにあったお菓子箱を覗いて、お礼を探した。

ただちに影響はありません?

小さなころのなにげない日々を思い出しながら、プラズマ画面に映る原子力発電所の様子を不安げに観てたのは、これから大学へ入ろうとしてたときだった。

ある日の昼下がりに起きた東北沖の大地震で、わたしの住む関東近郊も激しく揺れた。テレビをつけたら、街や人が津波に飲まれる模様と作業着姿で記者会見する政治家の横に被災した原発を小さく映す映像が流れた。

Twitterを見ると、関東は放射能で汚染されるとか、被災地に外国人窃盗団が来てるとか、さまざまな情報が押し寄せる。

身を守るため、自分の話をしないと決めたが、なにかとつながってたくて、家族全員のいるリビングでパソコンとテレビの両方をつけてた。

2台の画面を交互に観るわたしに母が郵便物を渡した。入学予定の大学からで、毎年、日本武道館で行ってる入学式を中止し、学部でのオリエンテーションを4月中旬に延期する知らせだった。

「九段かどっかの会館でひとが亡くなって、公共施設が修繕に入るから、入学式中止だって」

「えー。行きたかったのに」

母はとても残念そうな顔をした。

「いいよ。行かなくて。恥ずかしいから」

「あんた、1日に亡くなったおばあちゃんの写真持っていくのが夢だったんだから。入学式はなくなったし、原発もああだから、ここにも住めなくなるかもね」

母はテレビに映る原発をちらっと観た。

「あのさ。原爆落とされた日本に、原発があるって、なんか変だみたいなことをお母さん言ってたの憶えてる?」

「さぁ。言ってたかなぁ」

テレビに目を移したとき、建屋が爆発した。

「マジ?」

母とわたしは同時に叫んだ。

「ただちに影響はありません」

会見で作業着姿の政治家が語るのを観て、原発なんて扱えんの?ドラえもんは助けてくんないけどと思った。

震災話とヘイトスピーチ

例年より遅く入学したとき、被災地と背広に着替えた政治家同士の足のひっぱりあいと国会前で原発に反対するひとたちのデモが注目されるようになった。

講義は震災にまつわる話ばかりだった。しかし、時が経つにつれ、震災の話はだんだんされなくなり、3年のときは、在日コリアンへのヘイトスピーチが問題になった。

標的になりたくなかったので、新大久保に行って、差別的なデモを排除するための署名に名前を書いただけだった。

4年目を韓国ですごしたあと、1年ぶりに日本へ帰ってきたとき、戦争法案が話題になっていた。ヘイトの話題があまり見えず、落ち着いたのかと少し安心しつつも、あたらしい問題がつぎからつぎへとSNSで流れるのに、ため息をついた。

国会前でおなじ年ぐらいのひとたちがやってる抗議デモはTwitterで知ったが、「国民なめんな!」のコールに、生んだばかりの子どもを抱いて「変な世の中になりつつあるね」とつぶやいた韓国籍のいとこが頭をよぎり、わたしたちみたいな存在が忘れられてるのを感じ、授業に行った。

ひさしぶりの大学に不安はあったが、上手くなじめて、友人もでき、授業が終わるたびに、校舎地下の食堂でおしゃべりしてた。

「大学の入学式に行くのいやだったんですよね」

おなじ県出身の彼女はわたしが年上なのを知ってたので、敬語だった。

「自分の代は入学式なかったよ」

「えっ!マジですか!」

「うん。だって、2011年入学で、武道館使えなかったから」

「震災直後でしたもんね。あのとき、怖かったなぁ」

「介護してたばあさんが亡くなった10日後に震災があって、大学に入ってみたら、震災の話ばっかりで、異様な雰囲気だったなぁ。もう、4、5年前になるか」

「なんか遠い昔みたいですね」

「テレビで震災にふれなくなったからじゃない?」

謎のプリント

わたしたちのとなりで2人組の女子学生が「なんか訳わかんないもの拾ったんだけど」「ここに置いてけば?」と言って、ホチキス止めされたプリントを置き、どっかに行った。

プリントが視界に入り、ふと、手に取る。

「なんですか? それ」

「さっき、となりにいたひとたちが置いてったもの。なんか気になって。」

読んでみたら、在日は保険料を支払ってないが、年金は日本に払わせようとか、日本人より生活保護をもらえるとか、日本のマスコミには、韓国人を送り込んで支配してるとか、書いてあった。

「なんじゃこりゃ!」

落ちついたと思ったヘイトの波が足元に来て、思わずいった。

〔PHOTO〕iStock

わたしの声に彼女は驚いてたがプリントの内容を伝え、事務局まで行くと話したらいっしょについてきてくれた。

途中、おなじプリントを持ってた男子学生を見つけ、どこでもらったかを尋ねた。大講堂の前と聞き、行ってみたら、見覚えのあるプリントが置かれていた。スマホで写真を撮って、事務局へ向かった。

「すみません」

窓口で声をかけると、男性職員が来た。

「こんなもの拾ったんですけど」

プリントを差し出し、内容と置かれた場所を説明した。

「案内してもらえますか?」

彼を大講堂の前まで連れていく。置かれたプリントを手に取った彼にいった。

「わたしもなんですが、韓国にルーツのあるひととか留学生たちがこの大学にいると思うんです。注意を呼びかけてもらえばうれしいんですけど」

「学内で検討して、対応します。教えてくれて有難うございました」

手に取ったプリントを持った彼は事務局に帰った。

「対応してくれるんじゃないですかね」

ずっとついてきてくれた友人がいった。

「そうしないとマズいよ。掲示でも、メールでもいいから、注意してほしいね」

心からの願いをいった。

しばらくして、校舎の玄関口に「本学部が許可した者以外の立ち入りを禁止する」と書かれた白い看板が置かれた。

事務局を期待して、学内のメールボックスを毎日、確認したが、いつまで経ってもメールは来ない。気になって、事務局に行った。

「すみません」

「どうしましたか?」

あのときのひととは別の職員だった。

「何か月か前に、ヘイトデマが書かれたプリントを見つけて、ここに持ってきたものなんですけど、あれってどうなりましたか?」

「検討したんだけど、だれが持ち込んだか分からなくて、関係者以外は学内に入るのをお断りする看板を置きましたよ」

白い看板の置かれた理由を知った。

「あの、掲示か、メールで、注意喚起とかやらないんですか?」

「結局、だれがどういう意図でやったか分からないからね。まぁ、検討してみますよ」

「そうですか」と言って、わたしは立ち去った。

メールを確認する日々はつづいたが、ついに来なかった。

大学とのあいだに溝ができたように感じた。

「中国人は採用しません」

打ち合わせに行く途中、卒業した校舎の前を通ると、あのときの白い看板があった。

授業終わりだったのか、玄関口には学生たちがあふれてた。

「これが立ってる理由、知らないんだろうなぁ」

ひとりごとを言って、駅まで歩いた。

電車に乗ったら、韓国は反日みたいな文句が書かれてる中吊り広告に出迎えられた。目をそらすため、スマホを観る。

Twitterのタイムラインに、海外ルーツの子どもたちを紹介する記事が流れた。読んだら、ニューカマーだけを特集して、日本も移民社会になるみたいな結論だった。

中吊りを見たくないから、スマホを観てるわたしはなんだろうと思って、画面を指でスライドする。

〔PHOTO〕iStock

さっきまで読んでた記事のURLはあっけなく消え、「中国人は採用しません」と書かれたツイートが現れた。プロフィールを見たら、最高学府の若い研究者で、本も出してるらしい。

原発ひとつもコントロールできねぇのに、AIで国なんか救えるかよ」

著書のタイトルに思わず、噴き出した。

しばらくして、彼の所属先の声明文とAIの過学習で不適切なツイートになったと彼の謝罪文が流れてきた。のび太でも道具の失敗をドラえもんのせいにしないよなとあきれたが、これで終わるかもしれないとも思った。

大学図書館で調べ物をしてたが、飲み物がほしくて、自販機のある校舎へ行き、ラウンジでジュースを飲みながら、スマホを見てたときだった。

謝罪したはずの研究者のあたらしいヘイトツイートが流れた。反省のない彼にあきれたのか、反応したのは一部のひとたちだけだった。

残りのジュースを一気に飲み、図書館へ戻ろうとしたところ、玄関口の白い看板に出会った。

こいつが置かれた理由みたいに忘れ去られたくないなと思って、調べものを切り上げ、自宅へ急いだ。

息を切らせて自室へ入り、机の前に座って、白紙のルーズリーフを出し、鉛筆を持ったが、気持ちが高ぶりなかなか書けない。

とりあえず落ちつくため、YouTubeを開く。背広を着た松田優作ハナ肇のサムネイルがトップ画面のおすすめとして出てきた。

タッチしたら、こんな歌が聴こえてきた。

Mama…
Do you remember…