「NiziUを生み出したプロデューサー、パク・ジニョン(J.Y.Park)氏は、能力がいくら優れていても、『人柄』で議論を呼びそうな人物はメンバーに選抜しないことを原則としています。Nizi Projectでも『人柄』が選抜基準として強調され、JYPの原則が忠実に反映されている。そのため人格的に問題のない人物がNiziUのメンバーとして選抜されたはずです。
ただ、デビュー後、いきなり人気を得ることで、最初の志を保つことが難しくなることもある。所属事務所も教育面などでサポートするでしょうが、初心を保てるかどうかは結局、個人に懸かっている。NiziUにはオーディションに参加した時の謙遜さ、ファンを大切さに思う気持ちを忘れずに活動してほしい」 12月2日に正式デビューを果たす日本人9人組グループ「NiziU」についてこのように語るのは、韓国の大衆音楽評論家、ファン・ソノプ氏だ。 いま、韓国のK-POP業界では、韓国社会でのアイドルの“人格”が問われる事件が相次ぎ、社会問題化している。その背景には、K-POPアイドルの育成システムの問題が指摘されている。
スタイリストが告発した「パワハラ」
〈アイリーンがRed Velvetのメンバーとして活動を続けるならば、今回の事件のレッテルが貼られ、グループのイメージへの打撃は避けられません。アイリーンが今後グループ活動を続けるのは極めて不適切だと判断し、一日も早くRed Velvetから脱退することを強く求めます〉 人気女性K-POPグループ「Red Velvet」のファンサイトが、リーダーのアイリーン(29)に脱退を求める声明を出したのは10月22日のことだった。グループを誰よりも大事に思い、応援しているはずのファンサイトの“脱退要求”はなぜ起こったのか。
事の発端は前日の21日、15年に渡って韓国芸能界で活動するエディター兼スタイリストのAさんが、自身のInstagramに次のような書き込みをしたことだった。 〈今日、私はある人に徹底的に(心を)踏みつけられる経験をした。地獄のような20分だった。挨拶は完全に省略され、椅子に座ったまま、その前に立っている私の顔に携帯電話を手にして指差しながら暴言を吐いた。(その怒りが)私に向かったのか、その部屋にいた全員に向かったのかわからないほど興奮していた。とにかく今日の対象は私だったようだ〉 Aさんは、文章の最後に「#psycho」「#monster」というハッシュタグをつけたが、この2つの言葉は、Red Velvetの曲名と、アイリーンとスルギ(26)によるユニットの曲名。この告発の相手を推測させた。 その後、Aさんと似た経験をしたという芸能関係者からのアイリーンについての暴露が相次ぎ、この“パワハラ”の主人公が彼女であるという噂が、一瞬にしてインターネットを沸かせることになった。 アイリーンは、Aさんの書き込みがあった翌日の22日午前、自身のInstagramに「私の愚かな態度や軽率な言動でスタイリストの方の心を傷つけ、申し訳ない」と謝罪。所属事務所のSMエンターテインメントも、アイリーンがAさんを直接訪ねて謝罪したと明らかにし、「当社も同様に今回の事件に責任を痛感する」という謝罪文を発表した。 しかし、ネット民たちの非難は収まらなかった。 世論が悪化すると、アイリーンをモデルに起用している世界的な化粧品ブランド「クリニーク(Clinique)」は、アイリーンが登場する広告ポスターを売り場やホームページから撤去。今年公開予定だったアイリーンの主演映画は封切りを延期する事態となった。
韓国では最近、アイドルの「人格」問題がグループ脱退にまで繋がった一件があった。 7月3日、人気ガールズグループ「AOA」の元メンバーで、現在俳優として活動しているミナ(27)が自身のインスタグラムを通じて、AOAメンバーのジミン(29)から練習生の時からグループ脱退までの11年間、精神的なイジメを受けたと主張した。 ジミンと所属事務所FNCエンターテインメントはミナを訪ねて謝罪し、ジミンがグループから脱退して芸能界を引退することで事が収まった。 グループ内でのトラブルに止まらず、昨年には韓国社会に衝撃を与えた重大な事件も発生している。
女性に薬物を飲ませ、集団で性暴行
2019年、人気グループ「BIGBANG」の元メンバーのV.I(29)、同じく人気グループ「FTISLAND」元メンバーのチェ・ジョンフン(30)、ソロミュージシャンのチョン・ジュンヨン(31)などK-POPアイドルたちが「バーニング・サン事件」に巻き込まれた。 江南(カンナム)の有名クラブ「バーニング・サン」で起きた暴行事件をきっかけに、クラブと警察との癒着関係が明らかになったこの事件は、捜査の過程で売春や麻薬取引、脱税、横領など、数々の悪質な不正行為が明らかになった。 V.Iは「バーニング・サン」の経営者の一人で、海外の事業家たちを接待するために売春を数回斡旋したことが明らかになった。V.Iの仲間のチェ・ジョンフンやチョン・ジュンヨンは女性に薬物を飲ませ、集団で性暴行を加えた事実が明らかになり、K-POPアイドルの“不道徳さ”が世界に知れ渡ってしまった。 結局、チョン・ジュンヨンとチェ・ジョンフンには2審でそれぞれ懲役5年と2年6月が言い渡され、V.Iは現在、売春、横領など8つの容疑で裁判が継続している。この事件は、韓国社会において、アイドルの「人格」「道徳性」に対して、問題意識が本格的に提起される契機となったのだ。
背景にある「過酷な育成システム」の実態
なぜ、韓国芸能界でこのような事件、トラブルが続発するのか。前出の大衆音楽評論家、ファン・ソノプ氏は、「アイドルの人格を巡る議論は、個人の問題を超えて、システムにも責任がある」と分析する。 「K-POPのアイドル育成システムは、世界的に大きな成功を収めたビジネスモデル。しかし、その陰では、幼い練習生たちが何年間も厳しい訓練と競争に苦しめられ、激しいストレスに晒されている。いつデビューできるか分からない不安感、同じ練習生たちを踏み越えて上がっていかなければならない競争意識、さらに合宿生活をしながら練習に邁進する日常のために孤立感が深まり、社会規範に対する理解が同じ年齢の若者より落ちてしまう。 さらにトップスターになると、環境が180度急変し、みんなから急にチヤホヤされるようになる。そこでアイドルは内面的な混乱に陥る。結局、自己中心的な『自分が最高』という価値観を形成してしまい、ストレスを『人に当てる』という方法で解消してしまうようになるのです」 アイドルの度重なる「人格」問題に対して、所属事務所の責任が指摘されていることから、最近は大手事務所が相次いで、人格教育や全人教育を取り入れたトレーニングを始めている。
代表も不祥事、YGエンタでは……
所属アイドルだけでなく、梁玄錫(ヤン・ヒョンソク)元代表(50)までが賭博などの問題を起こし、イメージが失墜しているYGエンターテインメントは、外部講師を定期的に招待して講義を聞くなど、人格教育に力を入れている。 オーディション番組を通じて今年8月にデビューを果たした12人組のボーイズグループ「TREASURE」は、デビュー記念のインタビューで、所属するYGエンターテインメントの教育について、次のように説明した。 「普段、人間性に関する本をたくさん読み、人間性に関する会話をメンバーたちとよく交わしています。どうすれば良い影響力を伝えることができるかについて、いつも悩んでいます」(チェ・ヒョンソク) 「読書特別講義や関連講義を会社のトレーニングの一環として受けました。メンバーたちと一緒に本を読んだり感想文を共有したりする時間を持ちました」(ジフン) 「本をテーマに多くの討論を行い、新型コロナが起こる前には文化体験も行い、創意力を養いました」(バン・イェダム)
NiziUは若者のロールモデルになれるか?
SMエンターテインメントとYGエンターテインメント所属のアイドルが相次いで「人格」をめぐるトラブルを巻き起こしたことで、人柄を重視するJYPエンターテインメントの「アイドル育成システム」に対する再評価が行われている。 特に、冒頭で触れたとおり、パク・ジニョン代表が謙虚さと人柄を強調した「Nizi Project」を通じてデビューした「NiziU」の9人のメンバーに対する評価も、韓国では肯定的な意見が聞こえてくる。 「Nizi Projectオーディションはとても優しいオーディションで感動的だった。まず、他の参加者に対して過度な競争心を見せる参加者はおらず、他の参加者の成功を心から祝う姿も印象的だった。こうした日本人特有の思いやりがNiziUの活動でも魅力につながると思う」(日刊紙の芸能記者) 韓国では、多くの子供たちのロールモデルになっているK-POPアイドルに、その影響力に見合う社会的責任を求める風潮がある。 正式なデビューを控えたNiziUがオーディションで見せてくれた健康な精神や自然体の魅力を十分発揮すれば、韓国のファンにも良い影響力を与えるアイドルとして愛されることになるだろう。