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実在のいじめによる死亡事件を描いた映画 何故?「許された子どもたち」

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どうして何故??? 少年達は許されたのか…

実在の少年犯罪に着想を得た映画「許された子どもたち」が6月1日より東京・ユーロスペースと、大阪・テアトル梅田で公開される。新型コロナウイルスの影響で数々の映画が公開延期されている中、緊急事態宣言の解除を受け、もっとも早く上映が実現する新作の1つだろう。

    少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由6月1日ユーロスペース他にて全国順次公開/(C)2020「許された子どもたち」製作委員会(PG12)/配給: SPACE SHOWER FILMS

 結論からいえば、本作は“地獄めぐりエンターテインメント”として文句なしに面白く、“誰もが加害者になる恐怖”を描いた作品としても一級品だった。本稿では映画で描かれる地獄がどのようなものか、そしてその恐怖への入り口がどこにあるのかを、5つの項目に分けて解説していく。

 

1:想像を超える地獄の底の底へ連れて行かれる

 本作の物語は、中学1年生の少年が同級生へのいじめをエスカレートさせた結果、殺害してしまうことから始まる。少年は一度は犯行を自供したものの、息子の無罪を主張する母親の説得のせいで否認に転じ、無罪に相当する“不処分”となってしまうのである。

    少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由(C)2020「許された子どもたち」製作委員会 

 

 これにより、少年の生活は生き地獄そのものと化す。少年の家族に世間から激しいバッシングが浴びせられることは序の口、これ以上の“底”に落ちることはないと思ったとしても、そのさらに底、そのさらに底を見せられる様には「もうやめてくれ!」「絶対にこんなに目には逢いたくない!」と誰もが思うだろう。その過程は、(この題材に対しての表現としては不適切かもしれないが)ひと時も退屈させないほどに面白いのである。

 少年は法律に正しく罰せられなかったことにより、皮肉にもさらに重い辛苦を味わうことになる。これには「裁かれたほうが良かったじゃないか」と感じる人も多いのではないか。いじめによる殺人という罪は、もちろん許されるものではないし、許してはいけない。しかし、少しでも許しに近づくことができたかもしれない法律というルールから、彼は逃れてしまった……ここに、この物語の恐ろしさがある。

2:実話ではないが、ほぼ本物の言葉もある

 「許された子どもたち」の物語そのものは実話ではなくフィクションだ。しかし、現実に起こった複数のいじめによる子どもの死亡事件を参考にしており、少年犯罪における社会的な側面、それに対する内藤瑛亮監督自身の感情も、作劇に反映されているのだという。

 例えば、本作は“山形マット死事件”が企画の発端となっている。これは、内藤瑛亮監督が当時の自分と同世代の少年が加害者となったこと、そしてその加害者の少年の一部が不処分(後に加害者7人全員の関与が認められた)となったことなどにショックを受けたことなどが理由だ。

さらに、少年犯罪への社会的なまなざしが改められるきっかけにもなった“川崎市中1男子生徒殺害事件”も、本作に大きな影響を与えたようだ。この事件では、世間が加害者家族に過剰なバッシングを浴びせプライバシーの侵害が行われ、必要以上の献花などがされた一方、被害者家族は決してそうしたことを望んではいなかったという。

 この他にも、劇中の「お前さぁ、人の幸せを奪っておいて、自分だけ幸せになるつもりか?」というセリフは“山形マット死事件”の取り調べの際に警察が加害者少年に言った言葉が基だ。「死んだお子さんの名前、ご存じないんですか?」というセリフも、“神戸連続児童殺傷事件”おいて警察官から質問された加害少年の父親が、被害者の名前を答えられなかったというエピソードを参照していたりもする。

これら実際の事件における種々の要素が、この生き地獄のリアリズムに大きく貢献していることは間違いない。エンドロールでズラリと並ぶ参考文献の多さからも、その“実際の事件をしっかり見つめる”作り手の矜持は伝わることだろう。

 

少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由

 

3:誰もが加害者側になり得る事実と恐怖を描く

 この「許された子どもたち」は、いじめによる死亡事件における加害者側の視点に立った作品だ。これにより、誰しもが加害者側になる可能性があるという恐怖を描いていることも、特筆すべきだろう。

 ここでいう加害者とは、いじめにより同級生を殺してしまった少年本人だけに限らない。ネットで批判を超えたバッシングを浴びせる者たち、少年の転校先で彼の正体を探ろうとする同級生、そして息子のいじめによる殺人の罪を認めようとしなかった母親も、加害者と言えるのではないか。

 何しろ、この母親は息子が過去にいじめの被害者側であったという事実を提示した上で、「私の息子は人の心の痛みが分かります。だから、絶対にいじめなんてしません!」と断言するのだ。加害者であるという可能性そのものを、完全に否定してしまうのある。

 これらが、ある種の“正義感”によるものであった、ということも恐ろしい。ネットで誹謗中傷を書き込む者や、転校先の同級生は「裁かれないとおかしいだろ」という考えの元で少年を追い詰めようとしていた。少年の母親は“息子への妄信的な愛情”があったからこそ、その裁きを受け入れようとはしなかったのだろう。

内藤瑛亮監督は、「人は被害者であることは比較的容易に受け入れられるが、自分が加害者であるということは認めづらい」とも語っている。前述した正義感があれば、さらに加害者であると認めるのは難しいのではないか、そのことが“謝る”という手段を逃すきっかけになり、さらなる不幸にもつながるのではないか……。本作は、その普遍的な事実を、苛烈な描写をもって教えてくれるのである。

 また、本作は「許された子ども“たち”」というタイトルでありながら、いじめによる死亡事件の主犯となった少年ただ1人の物語に焦点を絞っており、他の加害少年はわずかしか描写されない。にもかかわらず、なぜ“たち”とタイトルにあるのか……それは“許された子ども”に、この映画を見ている観客の子どもたちも含まれることもあり得る、誰もが加害者になる可能性がある、と暗に示されているからではないだろうか。その恐怖は、誰にでも共通であるはずだ。

    少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由(C)2020「許された子どもたち」製作委員会 

 

4:自主製作だからこそ、リアル10代の役者の熱演が生まれた

 本作は8年の歳月をかけて製作された自主製作映画だ。一時は商業映画としての企画も検討されたものの、20代の人気俳優を起用してはどうか、もっとエンターテインメント要素を打ち出してはどうか、といった案が持ち出され、内藤瑛亮監督も折衷案を検討したものの、やはり「譲れないものがある」として、結局は自主製作になったという経緯がある。

この“自主製作にこだわった”ことも、本作が類いまれな傑作に仕上がった大きな理由だろう。特に、主演を務めた上村侑(うえむらゆう)、彼のことを気にする少女を演じた名倉雪乃が、役とほとんど変わらない年齢であったことはとても大きい。どれだけ演技力のある俳優がこの役を演じたとしても、年齢が違ってしまってはここまでのリアリズムと存在感は出せなかっただろう。

    少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由(C)2020「許された子どもたち」製作委員会 

 

 出演を希望する中学生を対象にしたワークショップを開催し、いじめの加害者や被害者を演じることによって考えを巡らせてもらう、という製作過程も自主製作ならではだ。2カ月に渡りいじめの心理を学び、そこから抜てきされた若い役者たちは、これ以上は望めないほどの熱演を見せている。大人の俳優たちも、加害少年の母親を演じた黒岩よし、被害少年の両親を演じた地曵豪(じびきごう)と門田麻衣子を筆頭に、痛烈な印象を残すことだろう。

    少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由(C)2020「許された子どもたち」製作委員会 

 

5:“モヤモヤ”という宿題を持ち帰られる

 本作は見た人に“モヤモヤ”をもたらす内容だ。何しろ、劇中ではいじめによる殺人から始まったこの最悪の地獄めぐりの物語に、ある意味ではっきりとした結論を出さないでいるのだから。

しかし、その“モヤモヤ”こそ、本作でもっとも重要なことだ。苛烈な描写により観客の感情を揺さぶりながらも、ワイドショー的な「○○は断罪されるべきだ」「こちらに責任がある」という一方的な論調に帰結しない、最後に“この問題の宿題を持ち帰る”からこそ、映画という媒体の意義があるのではないだろうか。

 

 本作はPG12指定であるが、ぜひ劇中の少年たちと同じ中学生に見てほしい。いじめについて多角的かつ客観的に考えられるきっかけになり、同時に“加害者側になるかもしれない可能性”を認識できる。

    少年はどう裁かれるべきか? いじめによる死亡事件を描く映画「許された子どもたち」が必見の地獄めぐりエンタメである「5つ」の理由(C)2020「許された子どもたち」製作委員会 

 

 また、キャッチコピーの「あなたの子どもが人を殺したら、どうしますか?」という問いかけは、全ての子どもを持つ親にも痛烈に突きつけられるものだ。最恐のホラー映画という形にはなってしまうが、親御さんたちにも本作を強くおすすめしたい。

 そして、本作は(マスクの着用など十分な対策をしたうえで)映画館でこそ見てほしい。“音”の演出がこだわり抜かれていることもあって、劇場という空間で堪能してこそ、この地獄めぐりが真に迫ったものになるだろうから。そして、その地獄を体験してこそ、同じ地獄に陥らないためのヒントももらえるはずだ。

 

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