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「困難から逃げていいよ」支援者が児童書を自費出版!

自費出版した『ひとりぼっちの白鳥』を紹介する西宮外喜子さん(筆者撮影)

「もう だれもいじめないで」。富山市奥田中1年の岩脇寛子さん(当時13歳)が1988年12月21日、遺書をしたためて自ら命を絶った。32年が経ち、今年の命日が33回忌となる。遺族を支援してきた西宮正直さん(79)と外喜子さん(70)夫婦は、寛子さんを題材にした児童書『ひとりぼっちの白鳥』を自費出版。8月23日に正直さんが店主を務める喫茶「にしのみや」で出版記念会を開いて披露した。外喜子さんは元養護教諭である。40年以上、富山県内の中学・高校の保健室で、多感な時期の生徒に寄り添ってきた。今、あらためて伝えたいことは?

児童書『ひとりぼっちの白鳥』の出版記念会。喫茶「にしのみや」の常連客や支援者らが集まった
児童書『ひとりぼっちの白鳥』の出版記念会。喫茶「にしのみや」の常連客や支援者らが集まった

児童書『ひとりぼっちの白鳥』

 西宮さん夫婦は、寛子さんの両親を支援するため1996年に「もう、ひとりにはさせないよ!の会」を結成、2004年には寛子さんの遺品などを集めて回顧展を開催するなど、「いじめの記憶を風化させない」との思いで活動してきた。回顧展では、いじめや不登校を経験した人らがやってきて、辛い経験を語り合ったことから、その内容をベースに児童書を完成させた。

 児童書は「ひとりぼっちの白鳥」が最後は数羽で立山連峰に向かって飛び立っていくストーリーで、1羽の白鳥に寛子さんを重ねている。13歳で死を選んだことは描写されているが、夢だった看護師になり、結婚して出産し、父の克己さんの店を休日に手伝っているという想像上の物語も盛り込まれている。

「大人向けにこれまでの活動や学校・教育委員会の対応を記録した本はすでにありますので、子ども向けのメッセージとして1冊にまとめました。寛子ちゃんの13年間の思い出だけを語るのではなく、『かなえたい』と願った未来の姿も描きました。彼女がベランダから飛び降りて亡くなったのではなく、別の世界に向けて飛び立っていったんだと信じたいのです」

 

『ひとりぼっちの白鳥』を手にする岩脇壽恵さん(手前)と西宮外喜子さん
『ひとりぼっちの白鳥』を手にする岩脇壽恵さん(手前)と西宮外喜子さん

 外喜子さんは「こんな本を出版すると、(寛子さんの母の)壽恵さんを苦しめてしまうのではないか」と悩んだ。「成長した姿を想像するのは、かえってつらいだろう」という思いがあったからだ。完成した本を見せると、やはり切なさを感じたように見えた。しかし、「作ってくれてよかった。寛子が生きていたことの証になる。ありがとう」と言われた。

情報公開請求から「学習権」掲げ裁判

 克己さんは2019年6月に78歳で病死し、壽恵さんは77歳となった。寛子さんの月命日には墓参りを欠かさなかったが、車を運転する克己さんが亡くなったことで墓前を訪れる機会は減ったという。一人娘の死から32年間、どんな日々を過ごしてきたのか。

 岩脇さん夫婦は、寛子さんの同級生が大学受験を終えるなどして落ち着いた1994年5月以降、公文書公開条例・個人情報保護条例などに基づいて、生徒が書いた追悼文・作文や奥田中学校・富山市教育委員会の各種調査報告書などの公開を求めた。しかし生徒が書いた作文は「すでに焼却した」との報告を受け、公開された書類は黒塗りの部分が少なくなかった。寛子さんが自死するに至った経緯や、死後に学校で十分ないじめ対策が取られたかについての詳細は分からないままである。

 そこで1996年、学校が適切な措置を取らず、安全保持義務を怠ったなどとして、富山市を相手取り損害賠償請求を起こした。富山地裁の一審、名古屋高裁金沢支部の二審ともに両親の請求を棄却。2004年、最高裁が上告を受理せず訴訟が終結している。遺族にとって判決は納得できるものではなかったが、全国で初めて憲法26条に基づき「学習権」を主張。教育行政のあり方に一石を投じた。

「もう、ひとりにはさせないよ!の会」のメンバーら支援者も歳を重ねてきた。正直さんは昨年夏に体調を崩した。だからこそ、寛子さんの自死をきっかけに話し合ったことが風化しないよう、自費出版することで目に見える形にしておきたかった。

「長年にわたって岩脇さん夫婦とお付き合いをし、裁判を支援もしてきたけれど、いじめた子を追及する気持ちはないんです。誰も皆、いじめがあったことを忘れたい。けれど忘れてはいけません。当時、いじめた子も忘れることはできないはず。今となれば、子どもたちはすべて被害者です」

 

「もう、ひとりにはさせないよ!の会」を立ち上げ、岩脇さん夫婦を支援してきた西宮正直さん
「もう、ひとりにはさせないよ!の会」を立ち上げ、岩脇さん夫婦を支援してきた西宮正直さん

 支援者は33回忌を一つの節目と捉えている。33回忌は一般的に「弔い上げ」と言われるが、遺族は生きている限り気持ちの踏ん切りを付けがたいだろう。しかし、時間の経過は止められない。だからこそ今、寛子さんの死について「あらためて考えてほしい」と願わずにはいられない。

壽恵さん「何でもお母さんに話して」

 出版記念会では外喜子さんが『ひとりぼっちの白鳥』を朗読し、壽恵さんが本の感想を述べた。

「いじめは人生を狂わせ、夢も希望も奪ってしまう酷いものです。新型コロナウイルスに感染した人や医療者の家族がつらい思いをしているなどと聞くと心が痛みます。こんな時期だからこそ相手のことを思う気持ちを、この本から読み取ってください」

 壽恵さんは出版記念会に参加した小学6年の女児に「何かあったら、何でもお母さんに話してあげてね」と声を掛けた。うなずく姿に笑みを返し、女児の両親と語り合った。「あの時、寛子の苦しみをもっと理解してあげていたなら……」。32年の年月を経ても、後悔の念が薄れることはない。

長年懇意にしてきた支援者との再会に表情を和らげる岩脇壽恵さん
長年懇意にしてきた支援者との再会に表情を和らげる岩脇壽恵さん

「いてもたってもいられなくなって来ました」

 児童書『ひとりぼっちの白鳥』に対する反響の手紙が、喫茶「にしのみや」に届いている。

「うちの娘も学校で無視されていた。穏便に済ませたいという傾向、やはり教員の中にあった」

「いまだにいじめによる自死はなくならない。なぜ自分がいじめられた側に立って考えられないのか」

「こっそりといじめている人、いじめられている人に、この本を読んでほしい」

 直接、本を買い求めに「にしのみや」を訪れた中学1年の女子生徒の父親もいた。

「うちの娘が仲間はずれにされて部活動をやめ、苦しいはずなのに学校へ行っています。自分が子どもの時は『何があっても学校に行くのが当たり前』と思っていたから、娘の悩みを十分に理解できているとは思えません。『これではいけない』と思いました。そんな時、ネットニュースで本について知り、いてもたってもいられなくなって買いに来ました」

 その父親は午前5時半に到着して駐車場で待ち、同6時の開店と同時に入ってきた。正直さんが対応すると、娘の現状をぽつりぽつりと話し出した。

富山県内の教員」という男性も2冊買っていったそうだ。翌日も訪れ「自分の子に見せたい」とさらに2冊、購入した。外喜子さんは、こう語る。

「学校現場にはいろんな先生がいます。子どもにとって何が一番大切か。考えに考え抜いている先生がほとんどでしょう。わざわざ買いに来てくれた男性もそうだと信じています」

 

『ひとりぼっちの白鳥』は「もう、ひとりぼっちではありませんでした」で締めくくられている
『ひとりぼっちの白鳥』は「もう、ひとりぼっちではありませんでした」で締めくくられている

 20代のころ看護師だった外喜子さんは結婚・出産を経て養護教諭の免許を取得し、学校現場に入った。60歳で定年退職した後は臨時で勤務していた。「長年にわたり、子どもの心と体のケアに携わることができ、いい人生だったと思う」と振り返る。半世紀近く保健教育を通じて児童・生徒と接していても、実際にいじめの現場を目にする機会はなかった。しかし、集団による暴力や無視、悪口などによって傷ついている子は、どの学校にもいた。

2学期を前に揺れ動く気持ち

 例年、夏休み終了間際には自死が増える傾向にある。毎年、8月末は不安が募った。2学期の始業式を前に揺れ動く児童・生徒の気持ちが手に取るように分かったからだ。

「今は保健室登校もできるし、フリースクールなど学ぶ場はどこにでもあります。高校卒業程度認定試験を経て大学に行ってもいいのです。実際、退学して同級生と同じタイミングで大学に合格した生徒もいました。大人も子どもも生きづらくなっているのが今の時代。だから困難があれば、その状況から逃げていい。『自分に合ったやり方で学ぶ機会を求めよう』と気持ちを切り替えることも選択肢の一つです。心からそう叫びたい」

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大から夏休みが短縮されたので、多くの学校ですでに2学期がスタートしている。外喜子さんに保護者、児童・生徒、学校がどうすべきか聞いてみた。まずは親について。なかなかいじめの実態が見えない状況で、子どもが発するSOSをどうやってキャッチすべきなのか。

「心の不調は必ずといっていいほど体調の変化に現れます。朝起きられない、立っていてもフラフラする、トイレに行く頻度が増えた。小さな変調を見逃さないことです。下痢が続く、あくびばっかりしているなど、一時的な変化はあるでしょう。それが長引くようであれば、何か悩みを抱えている可能性があります」

 

出版記念会で『ひとりぼっちの白鳥』を朗読する西宮外喜子さん
出版記念会で『ひとりぼっちの白鳥』を朗読する西宮外喜子さん

ネット依存を心配し「親との連携」説く

 児童・生徒に対しては、前述の「困難があれば、その環境から逃げていい」というメッセージが最重要。その上で今年は「ステイホーム」を強いられ、インターネットでつながる機会が多い。現状を踏まえ、どうすべきなのか。

「学校で自分の居場所が見つけられない子どもにとって、ネットが救いになっているケースは少なくありません。だからこそ、それに依存してしまうリスクがあります。ネット上のつながりが有益かどうかを見極める必要があります。誤ったつながりに、のめり込んでいかない自制心が大切です。子どもだけでは見極められないので、保護者の目配りが必要です」

 新型コロナウイルスによる影響から、課題が山積なのは学校である。授業の遅れを取り戻すためにカリキュラムは過密になっているので、「教員の負担が大きいはず」と外喜子さんは心配している。

「いじめの有無にかかわらず、不登校のケースでは『学校に出ておいで』などと言い続けることが児童・生徒にプレッシャーをかけることになりかねません。かといって声掛けをしなければ『自分は必要のない存在』と思ってしまう子もいます。この微妙な距離感、いつの時代も先生たちは葛藤しておられることでしょう。何か問題が起こった時、子どもとうまくコミュニケーションを取れなかったとしても、保護者とは関わり続けること。それが大切だと思うのです」

寛子さんを指導したそろばん塾の講師が描いた肖像画。壽恵さんは大切にしている
寛子さんを指導したそろばん塾の講師が描いた肖像画。壽恵さんは大切にしている

 外喜子さんは「大事なことは、寛子さんの死を忘れないこと。寄り添い続けること。寄り添い続けていると、人と人が繋がっていく」と出版記念会を締めくくった。

※参考文献

・『ひとりぼっちの白鳥』(西宮正直・西宮外喜子著、もえ編集室、2020年8月)

・『隠蔽/父と母の〈いじめ〉情報公開戦記』(奥野修司著、文藝春秋、1997年11月)

・『いじめの記憶/もう だれも いじめないで』(岩脇克己・岩脇壽恵・いじめの記憶編集委員会著、桂書房、2008年12月)