ナイフで脅迫、睾丸破裂…韓国芸能＆スポーツ界で“いじめ
いじめ」告発が続く韓国スターたち
K-POPアイドルやTVドラマの大ヒットから米アカデミー賞受賞まで、世界を舞台に活躍が続く韓国芸能界。だが最近その足元が何かと騒がしい。
ドラマやバラエティなどに起用されていた若手スターたちが続々と番組を下ろされ、放送延期あるいは撮影のやり直しになるといった混乱が続いているためだ。
その原因は、過去のいじめ。若手俳優やアイドル、また人気スポーツ選手にいじめや暴力を受けていたとの告発が、韓国のネット社会でいま頻繁に繰り返されているのだ。
ネット発のいじめ告発は以前にもあったが、特に今年に入ってからはMeToo運動さながらの過熱ぶりを見せている。
主演俳優降板で約3億円の訴訟
男性俳優のジス（28）も、そんな告発で降板させられた1人だ。彼は今年2月15日に放送が始まった公営放送KBSの時代劇ドラマ「月が浮かぶ川」で、主演を務めていた。
だがその第6話が放送された3月2日、同じ中学校に通っていたという3人がネット掲示板に告発文を投稿。それぞれジスから暴力や脅迫などのいじめを受けていたなどと主張した。
ジスはこの訴えを認め、同月4日にインスタグラムで謝罪。一方でKBSウェブサイトの掲示板には、ジスをドラマから下ろすよう求める声が同日時点で6000件超も寄せられた。
〔PHOTO〕gettyimagesKBSは同日夜にジスの降板を伝えるとともに、翌5日には全20話中18話まで撮影済みだったドラマの撮り直しを発表。ナ・インウ（26）を代役にすぐ撮影を始め、同月8日放送の第7話に間に合わせた。またジスが出演していた第1～6話も撮影し直し、オンデマンドで公開している。
一方で4月1日には、「月が浮かぶ川」の制作会社がジスの所属事務所を相手に30億ウォン（約2.9億円）の損害賠償請求を起こした。
火つけ役となった美人バレーボール選手姉妹
こうした告発の発端となったのは、日本でも大きく報じられた双子の女子バレーボール選手＝イ・ジェヨンとイ・ダヨン（24）姉妹によるいじめ問題だ。
2人への告発文が投稿されたのは、今年2月10日。ナイフで脅された、金を取り上げられて殴られた、汚くて臭いから隣に来るなと言われた、機嫌が悪いと蹴られたなど、計21の訴えが記されていた。
イ姉妹は同日のうちにインスタグラムで謝罪文を公開したが、同月13日と14日にまた新たな人物が告発文を投稿。結局2人は、15日に所属するプロチームから無期限の出場停止処分、また韓国バレーボール協会から国家代表資格の無期限剥奪を通告された。
韓国女子バレー界のスターだった両選手への失望は、激しい世論の怒りを招いたようだ。同月11日には大統領官邸ウェブサイトに「真相究明と厳正な対応を求めます」との請願が投稿され、1ヵ月間で約15万1000筆の署名を集めた。
股間蹴りで睾丸破裂、フェラチオ強要疑惑
2月12日にはイ姉妹への告発に刺激されたという人物が、男子バレーボールのソン・ミョングン選手（28）とシム・ギョンソプ選手（29）への告発文を投稿。
高校時代に2人からいじめを受け、ソンに蹴られた睾丸の片方が破裂したなどの悲惨な被害を訴えた。2人はこれを事実と認め、ともに所属するプロチームを通じて謝罪を発表している。
そのほか野球、バスケットボールなどさまざまなプロ競技に同様の告発が広まったが、特に注目されたのが元サッカー韓国代表のキ・ソンヨン選手（32）だ。
小学生時代にサッカー部の後輩だったという人物2人が弁護士を通じて被害を訴え出たのが、2月24日。報道によるとキ・ソンヨンは当時、後輩にフェラチオを強要していたという。
ただしキ・ソンヨンは事実ではないとして、3月22日に2人を刑事告訴するとともに5億ウォン（約4900万円）の損害賠償請求訴訟を起こしている。
股間蹴りで睾丸破裂、フェラチオ強要疑惑
2月12日にはイ姉妹への告発に刺激されたという人物が、男子バレーボールのソン・ミョングン選手（28）とシム・ギョンソプ選手（29）への告発文を投稿。
高校時代に2人からいじめを受け、ソンに蹴られた睾丸の片方が破裂したなどの悲惨な被害を訴えた。2人はこれを事実と認め、ともに所属するプロチームを通じて謝罪を発表している。
そのほか野球、バスケットボールなどさまざまなプロ競技に同様の告発が広まったが、特に注目されたのが元サッカー韓国代表のキ・ソンヨン選手（32）だ。
小学生時代にサッカー部の後輩だったという人物2人が弁護士を通じて被害を訴え出たのが、2月24日。報道によるとキ・ソンヨンは当時、後輩にフェラチオを強要していたという。
ただしキ・ソンヨンは事実ではないとして、3月22日に2人を刑事告訴するとともに5億ウォン（約4900万円）の損害賠償請求訴訟を起こしている。
“倫理”を消費する時代
一連の告発は、おおむねどれも10～20年ほど前の被害が対象だ。確かに韓国で学校暴力予防法が制定された00年代前半から中頃、またいじめ自殺が社会問題化した2011年前後は、校内暴力が深刻だった時期だ。だがそれがなぜいまになって、スポーツや芸能界のスター相手の告発が連鎖的に頻発しているのだろうか。
いじめのトラウマ体験は長い年月をはさんでフラッシュバックする、という議論もある。だが現地大手紙「ハンギョレ」は「倫理消費の時代…“正義”の名の下にスターの人間性を検証する」と題した記事（2021年3月15日付）で、次のような専門家の分析を紹介した。
「最近のLH事件（韓国土地住宅公社の職員が内部情報を元に土地投機を行っていたとされる事件）に見られる通り、社会のあらゆる分野で原則が正しく機能していない現実に失望した人々は、自分が参加して変えることができる何かにより積極的に反応しているようだ」
鬱憤を抱える韓国人の増加
不動産価格の高騰が市民を苦しめるなかで起こったLH事件は、文在寅政権の支持率低下にいっそう致命的な拍車をかけた。そうした鬱憤が、集団で叩けばすぐ結果の出るいじめ告発にはけ口を求めているのではないかというわけだ。
ソウル大学の研究者が4月21日に発表した調査結果では、「慢性的な鬱憤」を抱えている韓国人は2020年の47.3%から2021年は58.2%に増加したという。
〔PHOTO〕gettyimagesだが「いじめMeToo」は危険な落とし穴も抱えている。後になって告発が嘘だったことが判明するケースも少なくないからだ。
例えば女性アイドルグループLoonaのチュウ（21）、女優のチェ・イェビン（22）らはその一例。また男子バレーボール選手のパク・サンハ（35）は告発の一部を認めてプロ引退を余儀なくされたが、監禁・暴行などの疑惑は後に告発者自身が虚偽だったと認めた。
犠牲者を出しながら、なお勢いが止まらない「いじめMeToo」。韓国社会の公正と正義を求める戦いは、これからもさまざまな副作用を巻き起こしながら突き進んでいくのだろう。
